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bulle de savon mobile page へようこそ



オリジナル小説サイト『 bulle de savon 』(ビュル・デ・サヴォン)のモバイル用ページです。

連載中の「Magnet」というお話は試し読みのページもご用意してありますので、お気軽に覗いてみてください。





2017/06/13  「Magnet 38」 更新しました 



2017/06/13  「Magnet 38 - Make up your mind - 決心 」 








* 作品を第1話からまとめてお読みになる場合、

左(or 下)のカテゴリをポチっとなさると古いものから順に表示されて読みやすくなります。



第01話~08話 ・・・ チャプター1

第09話~19話 ・・・ チャプター2

第20話~31話 ・・・ チャプター3

第32話~    ・・・ チャプター4


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「Magnet 」 試し読みできます



magnetindextitle2.jpg


" ちかいうちに君はミス・シェリーと出会うんだよ "

突然幼稚園を解雇され呆然とするラムカ。プレイボーイの訳アリ料理人、ショーン。
恋人に裏切られ続けるネイリスト、ベティ。悩み多きゲイのヘアメイク・スタイリスト、ミシェル。
心優しきカフェのバリスタ、ポール。

現代のNYを舞台に、ある不思議な少年との出会いに翻弄される大人たちが織り成すラブ・ストーリー。
(・・・たぶん・・・汗)



初めていらした方、いきなり読み始めるのも躊躇われるかと思いましたので、
チャプター1(第1話から第7話まで)から抜粋したページをご用意いたしました。

シリアスでコミカル。
友情、人情、家族愛、エロス……そんな誰にでもある日常をごちゃ混ぜに綴ったストーリーです。
「ラブストーリー」とひと言で言い表せないかも、ですが、よろしければご試食をどうぞ。

(試し読みには軽いR18部分も含みますので、お気をつけください)


■ 登場人物紹介ページ

■ 用語解説ページ


試し読みは下記の「Read more…」からどうぞ
     ↓
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「Magnet38」更新しました

やっと!

やっとこさ更新でございますよ!




いやーもうほんっと申し訳ない。前回から半年も間が空いちまってるじゃないですか!
おーまいがっ!
挙句、何だか辛気臭い内容になっちまったような、そうでもないのような。
今回は「ジェニーちゃん自爆の巻」と「ミシェ子さんご乱心」の二本立てとなりましたけども。
ジェニちゃん、やらかしちゃったねえ。うまいことポール君を操れるつもりでいたんだろうけど、彼も本心に気付いちゃったからには、とうとうこんな結末になっちゃった。
本当はポール君に「もう無理!」って言わせるのはもう少し先の予定だったんですけど、うまい具合にジェニちゃんが自爆しちゃったんで、これが潮時かな、と。
彼女は決して悪い子ではないと思ってます。むしろ、人に可愛がられて愛されるタイプのお嬢さんじゃないのかな。
作者自身はちょっと苦手な部分のある女の子として描いてますが。でもちょっとかわいそうなことをしてしまいましたかね。
自分が優位に立ちたいというか、外堀を埋めて安心しておきたいタイプなのよね。
ポール君の気持ちが完全に彼女に向いていたら、とてもお似合いのカップルだったんじゃないのかなーと思います。うん。


んで、ポール君の事務所での事務作業は、ワタクシの実体験からです。
飲食業に勤めてるとは言え、メニューやお知らせ等の制作・印刷、データの打ち込みや発注作業など、意外と事務作業も多いんですよ。特に発注はバイト君でも必須。
大手ならパソコン作業専門要員がいるんだろうけど、個人経営の店だと、そこの店長だけじゃなくて、バイト君たちにもそういう仕事が割り振らるのが現状。
ポール君パソコンは得意みたいだし、オーナーのデュボア夫人からの信頼も厚いので、頼りにされてるんでしょうね。



そしてラブラブ♥ファイヤーにこんがり焼かれて帰ってきたミシェ子さんですが。
ミゲル兄さんに夢中で、ベチ子さんとラム子さんとの約束すっぽかしたようですw
話の中で「ラムカちゃんちのコーヒーはマズイ」って描写がありましたが、彼女は幼稚園をクビになっちゃって、食費をカツカツに切り詰める必要があったので、ファミリーサイズのお徳用パックみたいなw、飲みきれないうちに酸化しちゃってそりゃ美味しくなくなるわな、みたいなw、そんなコーヒーしか買えないのでした。
美味しいコーヒーもらいに、ショーンさんちにもっと遊びに行けばいーのにーw


あと今回はもうほんっとにタイトル付けが難産でして、大変に苦しみましたw
「Teardrop」にしようかなとも思ってたんだけど、涙は「ミツバチの涙」で一度使ってるし、もう「真実と嘘」くらいしか思いつかなくて、それにしようと思ったんですけど、ミシェ子さんの部分にも通じるタイトルのほうがいいよなーと思って「決心」という感じの言葉に決めました。ミゲルにーさんが決心してくれた、という内容だしね。
ポール君の決心と言うのは、ちゃんと彼女にサヨナラを告げることだったと思うんだけど、微妙にマッチしてない気がしちゃうのような、そうでもないのような。
ま、いっか。


そして今回、ポール君とジェニたんのブレイク・アップの場面を書いていた時に、Adeleの「Set Fire to the Rain」という曲が頭の中ぐるぐるしてました。
厳密に言うと、Boyce Avenueという人たちのカヴァーのほうなんだけど。

それともう1曲、日本のアーティストなんだけど、COMA-CHIという女の子の「sayonara」という曲、コチラも同じく頭の中ぐるぐるしてまして。
どちらも切ない曲なんだけど、大好きな曲なんですよ。



本家Adeleよりもこのカヴァーのほうが好きなんですよね。とてもいい声です。



    ↑
雨に火をつけるの、というタイトルからしてすでに悲しいというか。
歌詞が気になった方は、和訳サイトさん等で探してみてくださいね。
なかなかジェニちゃんの心境にピッタリなんじゃないでしょうか。

このカヴァーはワタクシの別宅である「Simply Beautiful」という萌えブログでも紹介している、イタリア発の「G&T」というゲイドラマで使われていて、この曲が使用されてるシーンがとても好きなんですよね。
Adeleらしい悲しいメロディがそのシーンをよりドラマティックにしてくれてて。
ワタクシの脳内でもこれをバックにジェニたんが「うえーん゚゚(゚´Д`゚)゚」っと号泣しておりましたw




コチラはCOMA-CHIちゃんの「sayonara」。



    ↑
ホントはDJ Watarai Remixがいつも聴いてる大好きなバージョンなんですけど、つべに置いてありませんでした。残念。
「♪あなたの姿がどこかへ遠ざかって行くよ サヨナラ サヨナラ サヨナラ サヨナラ♪」っていう部分がぐるぐるすんのよね。
「またどこかで会えるといいね」という歌詞の状況にジェニちゃんがなれるには、もっと時間かかりそうだけどね。




こんな感じでポール君はとうとうジェニちゃんに別れを告げてしまいましたが、肝心のベチ子さんとはこの先どうなっていくのやら。
ラブ♥ボケなミシェ子さんはもうこの際ほっとこうぜw




次回はなるべく早くお出し出来るように精進いたします。
ま、書く書く詐欺常習犯の言う言葉ですからあまりあてになさらず、マッタリとお待ちくださいまし。





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Magnet 38. 「Make up your mind - 決心 -」




pin-magnet38.jpg




ミッドタウン・ノース Café Dubois (カフェ・デュボア) 8:20 p.m.


カフェがその日の営業を終えて数分が経っていた。
彼は一足先に店から奥の事務所に引っ込み、ひとり、コンピューターの画面とにらめっこをしていた。
手元の紙を見てコンピューターに何かを打ち込んでは、時々、うーん、と声をあげて考え込むことを繰り返している。
オーナーであるデュボア夫人はもうすでに帰宅しており、あとは店の閉店作業を済ませた仲間から「終了した」という報告をもらい、今やっている仕事を済ませれば、彼自身も帰宅の途に就くことが出来るのだ。
1分でも早くそう出来るよう、尽力しているつもりだった。彼女が事務所のドアを開ける、その時までは。

「終わったわよ、ポール」
「Oh , Thanks , ジェニー」
「……」

ありがとう、とだけ言って、すぐに彼がコンピューターの画面に視線を戻す。そんな彼に何か言いたそうな顔を向け、ジェニーは入り口のドアを閉めた。

「……まだかかる?」
「うん……そうだね」
「ちょっと話せない?」
「今?」
「Oh , No no , 終わってからでいいの。続けて」
「……OK」

彼女は近くの椅子に座ってiPhoneをいじり始めた。正直言って気が散るし、カフェでベティと過ごした夜以来、ジェニーと二人きりになるのは居心地が悪かった。
けれど、1分でも早く仕事を片付けてしまいたかったし、『そこに居られると気が散るよ』だとか『帰ってくれない?』などと言うつもりもなかったから、黙ってそのまま仕事を続けた。
今ここで、争いの火種をわざわざ蒔くことはない。そしてその判断は賢明だったと言えるだろう。思いの外サクサクと仕事が進み、あと30分はかかるだろうと思っていたのが、15分も経った頃には終えることが出来たのだから。
コンピューターの画面から顔を上げてジェニーの方を見ると、彼女はiPhoneに何やら文字を打ち込んでいる。いつものように、友達とチャットでもしているのだろう。

「Uum……終わったけど……」
「―――お腹空いちゃった!何か食べに行こうよ」
「What ?」

勢いよくジェニーに腕を引っ張られ、断るタイミングを逸した彼は、素直にジェニーに付いていくことにした。何しろ彼自身も空腹で目が回りそうだったし、断ることで起こる彼女との気まずい会話に費やすエネルギーも、もうない。
ジェニーは彼をカフェから歩いて2分くらいの場所にあるレストランに連れて行った。何度か一緒に来たことがある店だ。
彼自身は特にその店が好きなわけではなかったが、それと同じくらい、嫌いなわけでもなかった。カフェから歩いてすぐの場所にあるから、時たま利用する。そんな店だった。
お気に入りの席があるわけでもなかったから、店員が案内した席に素直に腰を下ろした。
メニューに目を通してグラスに注がれた水をひと口飲み、乾いた口の中を潤していると、目の前のジェニーが突然「Oh my God !」と声を上げた。
見れば、近くのテーブルにいた、少し上の年代のカップルがジェニーに手を振っている。ジェニーはそのカップルの席へと行って2人とハグをすると、ポールの腕を引っ張って彼をそこへ連れて行った。

「ポール、兄のジェフと奥さんのルーシーよ。ジェフ、ルーシー、こちらポール」
「Oh ! Hi !」
「Hi !」
「はじめましてポール」
「はじめまして」

ポールとジェニーの2人は、彼女の兄夫婦に誘われ、彼らのテーブルに移ることになった。
ジェニーと2人きりで過ごすのは少し気が重かったから、それに救われたような思いもしたが、何の心の準備もないまま、彼女の家族と会って食事の席を共にするなど、今の彼にとっては負担でしかなかった。
兄夫婦だから比較的気楽に過ごしていられるものの、これが彼女の両親だったとしたら、そう思いついて、彼は心の中で身震いした。
ガールフレンドの両親に会うという経験が無いわけではなかったし、それで嫌な思いをしたこともなかったが、ジェニーに対して後ろめたい気持ちがあるからなのか、彼女の両親を前に堂々と振る舞える自信など、あるはずもなかった。
いや、誰に対しても、堂々と振る舞える自信など持ち合わせていないのが彼なのだが。









ミッドタウン・ノース 10:50 p.m.


それから2時間ほどが過ぎ、ジェニーの兄夫婦と別れた後、ポールはジェニーと仕事場であるカフェに向かって歩き始めていた。店の前に停めてあるポールのヴェスパを取りに戻るためだ。
ジェニーは大好きな兄夫婦のことを嬉しそうにあれこれと話している。それを聞きながら並んで歩いていると、ポールの停めたヴェスパが街灯に照らされているのが見え始めた。

「良かった。ジェフもルーシーもあなたのこと気に入ってくれたみたい」
「そう?」
「ええ、もちろんよ。きっとすぐにママに報告が行っちゃうわね。ルーシーったらお喋りさんなんだもの」
「Oh」
「ああでもママったら、どうして私も誘ってくれなかったの!なんて拗ねちゃうかもね。ふふっ、うちのママ、時々ちょっと子供みたいなところがあるから―――」
「―――Whoa whoa whoa , Wait a minute」
「Wha ?」

ジェニーの言葉を聞き、ポールが歩みを止めた。

「誘う……ってどういうこと?まさか……偶然じゃなかったの?」
「何のこと?」
「今夜のことさ。もしかして、彼らに会うように仕組んでたの?偶然のフリして?」
「……」

ようやく納得がいった。ジェニーの兄夫婦と握手をした時に、違和感のようなものを感じた、その理由を。
ジェフもルーシーも偶然に驚いたような顔をしていたが、どこか不自然な笑みを浮かべていたし、ルーシーとジェニーの、女同士のアイコンタクトが何となく心に引っかかっていたのだ。

「ジェニー?」
「偶然よ。決まってるじゃない」
「本当に?」
「なぜ私がそんなことする必要が?」

ジェニーは彼から瞳を逸らし、少し気まずそうな顔で下を向いた。

「Come on Jenny , 嘘つかないで。本当のこと言ってくれよ」
「―――嘘つかないで!?あなたがそれを言うわけ!?」
「!」
「あなたこそ本当のことを言ったらどう?具合が悪いだなんて嘘ついて私を追い返して、ベティとコソコソ遊んでたって」
「……What ?」
「知らないとでも思った?本当にびっくりよ。あなたでもあんなことするのね」
「……嘘はついてない。彼女とは偶然会っただけだよ」
「『偶然』ね。Hah」

そんなの信じられない、とでも言いたそうに、ジェニーが軽く鼻を鳴らした。
本当に嘘はついていない。しかし、そう口にしたことで、それが結局は『嘘』になってしまったと自覚してしまう感覚を覚え、彼は心の中で舌打ちしたい思いに苛まれた。
あの時は、本当に具合が悪くて帰ろうとした。だからあの時ジェニーに嘘はついていない。
けれど、自分の本当の気持ちに対しては?誰よりも自分自身に嘘をついているというのに。それはつまり、ジェニーに対しても嘘をついていることに他ならないではないか。

「―――Ok , ポール。認めるわ。彼らがあの店にいるのを知っててあなたを連れて行った。だけど信じて。騙すつもりはなかったの」
「Oh , God……」
「だけど普通に誘ってオーケーした?しないわよね?あなたは最近忙しい、疲れてるって私を避けてばっかりで、ろくに話もしてくれない。私たち、最近デートらしいデートもしてないし、最後にセックスしたのだっていつだった?」
「……僕だけの問題?この前デートに友達を呼んだのは君だよね?」
「彼らがあなたに会いたがったからよ。今日だってそう」
「彼らを優先したってこと?僕の気持ちはどうでもいいの?疲れてるのに、初対面の人間とずっと笑って話してなきゃいけない、その時間が僕にとってどれだけ苦痛か解らない?」
「じゃあ私の気持ちは?私に隠れて他の女の子と会ってた、それを知った私の気持ちが解る?」
「やましいことは何もしてないよ」
「そんな問題じゃない!何も解ってない!」
「じゃあ何?何が問題なの?」
「それは……」

ジェニーは口ごもり、彼から視線を外して俯いた。

「……相手が彼女だったからよ」
「? ベティのこと?」

ベティの名前を口にするだけで、心がひび割れてしまいそうになる。きっとそれは、ジェニーにとっても同じことだ。ただし、彼は、それを知らない。

「彼女は………ただの友達だよ」

彼は自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
自分の言葉に自分で傷つくのは、これが初めてではなかった。けれど、『ただの友達』という言葉が、こんなにも胸を抉る言葉だったなんて。

「ただの友達?じゃあなぜいつも彼女を目で追うの?」
「!」
「私をあんな目で見てくれたこと、あった?」
「……」
「……私のこと、もう好きじゃないの?」
「……好きだよ」

―――でも、愛してはいない。

「Oh my God……」

彼の瞳の色から察したのか、ジェニーは口元を手で覆い、瞳から頬に流れ落ちる涙を彼に見せつけた。
『ねえジェニー、泣かないでくれよ。僕が悪かった。強く言い過ぎたよ』―――いつものように、彼のこんな言葉を引き出すために、無意識に。
それなのに。
今夜の彼からは、その言葉を引き出すことは出来なかった。

「……I can’t do this anymore」
「……What ?」
「もうこれ以上、自分に嘘はつけないよ。もう君とは……やっていけない」
「! No , Noo ! Oh my God……oh my God ! 」

『もう無理だよ、ジェニー』―――彼の言葉に彼女は泣き崩れた。

「きみのせいじゃない、ジェニー。僕が悪いんだ」

『It’s not you. It’s me』―――過去に何度か言われて傷付いた言葉を、自分が口にしていることが信じられなかった。
けれど他に何を言えば良かったのだろう。だって悪いのは、間違いなく僕のほうだ。
ごめんよ、ジェニー。そう何度も言いながら、彼も泣いた。
頬を伝うそれは、もしかしたら、いつの間にか降り出していた、雨の粒のせいだったのかもしれないけれど。













チェルシー 9:45 p.m.


―――「で?まだミシェルと繋がんない?」
「わざと電源切ってるのよ。今日も彼の家に泊まってくるつもりだな、ありゃ」
「まあ、彼が幸せならそれでいいじゃない」
「だけどどうするのよ、これ」
「私はもう無理。あとコーヒーしか入んない」

3人分、いや、それ以上のボリュームの料理やデザートが、テーブルの上に所狭しと並んでいる。
その日の夜は、3人でゆっくり話しながら夜食を食べようと、前もって計画を立てていたのだ。
昨夜のクリフォード家のパーティーの帰り道、ミゲルと並んでキャブまで歩くミシェルに『じゃあ明日ね』と声をかけていたのに、今日になってみれば、彼と一切連絡が取れないのだった。
ああ、苦しい、と言いながら、ベティが椅子にもたれるようにしてお腹を突き出し、『ふーっ!』っと大きく息を吐き出す。
もう動けないからコーヒーはあんたが淹れて。そういうアピールだ。
仕方なくラムカがコーヒーを淹れるために立ち上がった。ミシェルはいつも比較的高価なコーヒー豆を買っているので、それを期待して、勝手知ったるピノトー家のキッチンキャビネットを開けたのだが、そこにあったのはどういうわけか、どこのマーケットにも置いてある廉価品のコーヒーの粉だった。

「これ補充したのあんたでしょ」
「へへ、バレた」
「目の前にもっと美味しいコーヒー売ってるカフェがあるのに」
「給料前だったんだもん。言っとくけど、あんたんちで飲むコーヒーよりはずっと美味しいから」
「それ言わないで」

軽口を叩き合い、出来上がったコーヒーを飲みながら、彼女たちはたわいもない話を続けた。
ふと、手元のコーヒーを見て、ラムカが思い出したように声を上げる。

「そう言えば―――」
「―――ん?」
「……ううん、何でもない」
「何よ」
「ほんとに何でもないの。そう言えばうちのコーヒー、あとどれくらい残ってたかなーって思っただけだから」
「うんっと残っててもさ、もっとマシなやつに買い替えなよ」
「うるさい」

軽く笑いながら淹れたばかりのコーヒーを再び口にする。
本当は、泊めてくれた朝に、ショーンが淹れてくれたコーヒーを思い出したのだ。
彼もミシェルに負けないくらいに、質の良い、美味しいコーヒーを選ぶ人間だと知った。
あれ以来、コーヒーを飲むたびに、彼の部屋で過ごしたあの朝を思い出して、何故だか胸のどこかがちくちくとしてしまう。
もちろんそんなことはベティに言えなかったから、適当に言葉を濁して、たわいもない会話を続けたのだったが。


そんなふうにとりとめもなく女同士の話に花を咲かせていると、がちゃり、と玄関のドアが開く音が聞こえた。
ミシェルが帰宅したのだ。

「お、帰ってきた!」
「Hi , ミシェ―――」
「―――独りにして!」
「Wha ?」
「ちょ!ミシェル!」

帰宅早々、挨拶もなしに、ミシェルは逃げるように自室へと姿を消した。まるで旋風のようだった。

「なに今の、Flash* ?」
「ね……まさかミゲルと何かあったんじゃ!?」
「うそ!大変!」

ベティとラムカは急いで立ち上がると、ミシェルの部屋へと走った。2人してドアに耳を当て、中の様子を窺ってみる。
しかし、ため息のようなものしか聞こえてこない。これでは判断の仕様がない。ベティは恐る恐る彼の部屋のドアをノックした。

「Michel ? Are you alright ? 」
「……」
「開けるよ?」
「Non」

ミシェルの返事を無視して扉を開く。彼はベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めている。泣いているようだった。

「Oh my god ! どうしたっていうの?私の天使ちゃん」
「ミシェル!」

ベティとラムカは彼のベッドに腰を下ろし、彼を慰めようと、彼の髪を撫でたり、背中を撫でたりして様子を覗った。
が、ミシェルからの反応はない。彼女たちは不安げにお互いの顔を見つめ、心配そうな顔で再びミシェルへと視線を落とした。

「ね、ミシェル。彼と何かあった?」
「……」
「Honey ?何とか言って」
「………違うんだ」
「違う?何が」
「For God’s sake (まったくもう), 余韻に浸ってるのに!邪魔しないで」
「なんだ、そういうこと」
「何なに?何の余韻?ちょっと!詳しく話しなさいよ」
「聞くだけ野暮じゃない?」
「だって夕食の約束すっぽかしたんだからね。言わないと許さないよ」

God―――それすっかり忘れてた、というニュアンスの声を上げ、ミシェルはうつ伏せていた状態から、天井を見上げるようにと体勢を変えた。

「やだ!ホントに泣いてたの?」
「え?悲しいの?どっちなの?」
「はぁ……彼のこと好きすぎて辛い。死にそう」
「Aww……」
「ねえやっぱり聞いて!僕史上、最高に幸せな一日だったんだ。はぁぁ……まだ胸がきゅんきゅん痛いよ。きっとあちこち穴が開いてる。きっとこのまま死んじゃうんだよ」
「何?プロポーズでもされちゃった!?」
「Whoa !」
「まさか」

はーっと大きく息を吐き、ミシェルは目じりの涙を拭ってベティの顔を見返した。

「やっと彼がはっきりと気持ちを示してくれたんだ。初めて彼が愛を与えてくれたんだよ!ねえ解る?これって大きな大きな一歩だよ。僕たち、やっと同じステージに立てたんだ」
「そうなの!?良かったじゃない!」
「Ok , fine , でもそれがあんた史上いちばん幸せなこと?」
「なんで?」
「もーっと凄いことかと思っちゃったじゃん」
「解ってないなあ。いい?彼はゲイじゃなかったんだよ?ずっと女と寝てたんだ。そんな彼が僕とのことを決心してくれたのに、これ以上幸せなことってある?」
「! 知ってたんだ……」
「Wha ?」
「いや、彼が女と……ほら……」
「知ってるよ、もちろん。女と一緒に帰ってきてセックスしてたし」
「えっ、見たの?それとも―――」
「―――まさかのスリーサム(3P)!?」
「Non !」

もう!この素晴らしい一日をスリーサムなんて言葉で穢さないで!―――そう言ってミシェルは両手で顔を覆った。

「ごめん、ごめん。でもさあんたも今言ったよ?」
「Shut up !」
「Hey ! そんなことより、幸せの分けっこよ!」
「Oh !」

ラムカとベティは、ミシェルの両側にそれぞれ横たわると、げらげらと笑いながらぎゅっと彼に抱き付くのだった。


3人のうちの誰かが幸せに溢れている時、或いは不幸で悲しんでいる時、彼らはいつもそうやって、3人で分け合うのだ。
いずれ彼らは知ることになるだろう。この時分け合った幸せのかけらの、その行く末を。










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「Magnet37」更新しました

お待たせいたしました。 今年最後のMagnet更新です。

本当は今年最後はショーンさんとラムカちゃんでキメたかったんですけどね。
どういうわけか「M&M 愛の劇場」になってしまったという。
しかも今回5000字に届かないくらいの非常に短いお話となってしまいました。
その代わり、内容はけっこう濃いと思うので、それでお許し下さいまし。
いやもう、作中のミシェルのように、ミゲル兄さん愛が溢れて溢れてしょうがなくてですねw
時間置いて出すのも気持ち悪かったんで、先にコッチ出すことにしちゃった、うん。

作中に出てきたサウス・ハンプトンは、ハンプトンズと呼ばれる一帯の中のひとつ。
「Sex and the city」にも出てきた場所で、ニューヨーカーにとって憧れの避暑地のようです。 ハンプトンズ wikiページ

地図はコチラ


Southampton (South + Hampton)、が正しい表記なので、本当は「サザンプトン」とか「サウサンプトン」って書くべきなんですけど、日本語表記だと分かりにくいっていうか、サウス・ハンプトンという響きのが好みなのであえてそう書いてしまいましたが、もしかしたらここの部分は書き替えるかもしんなーいw


ひりっぷさんはミゲルさんに厚い信頼を置いていて、車を買ってあげただけじゃなく、
ここも自由に使ってええでー、と合鍵も渡してる、そんな設定なんですが。
探偵業務(?)に車は不可欠ですし、ここハンプトンズで張り込みすることもあるでしょうからw
(単なるご都合主義ですねスイマセンw)



で、クリフォード家の別荘のイメージとしては、こんな感じかなあ?と。
     ↓
pin-fav57.jpg




もしくはこんな感じ? ちょっと大きすぎるかな。
     ↓
pin-fav58.jpg




これくらいのこじんまりとしたビーチハウスかもしんない。
     ↓
pin-fav60s.jpg




こんなふうに邸宅から砂浜に降りるようになってる、というか、住人しか砂浜に降りちゃいけないみたいねw
つまり、敷地内はプライベートビーチってことになるんでしょうか。
ミゲルさんたちにちょっとウロウロ歩かせちゃったけど大丈夫かなw
まあいいやw


で、今回のタイトルですが、ズバリ、SADEの名曲からお借りしております。
なのでご存知の方はすぐに「あ、SADEだ!」ってお気づきになられたでしょう。
この曲のPVの中で海や砂浜が出てくるんだけど、ミゲルさんたちが海に到着して砂浜に降りた時に、この曲がふわ~っと降りてきちゃったんですよ。曲と映像が。
んで、内容もシンクロしてる部分もあったので、これしかない!と思いまして。
でもそのまんまお借りするのは避けたかったので「プライド」の部分を他の言葉に変えようと思ったんですけど、この「Love is stronger than pride」という言葉の持つ力や美しさみたいなものは変えられないし、変えてはいけないな、とそのままお借りすることにしました。



何故かPVが観られないようなので静止画ですんません。



夏になると必ず聴いてしまうという、ワタクシの愛してやまない1曲であります。

実は、SADEからは他にもとっておきの話が生まれてるんですけどね。
それはまたいつかお出しできると思うので、その時までお待ち下さいまし。



さてさて、始めはつれない態度だったミゲルさんがやっとこさ決心してくれたみたいで、ラブラブ♥ファイヤーにこんがりと焼かれちゃった彼らでしたがw、最後ちょっと不穏な空気が流れたような、そうでもないようなw
ま、近所のおばさんに見られてただけかもしんないしねw
大した心配はいらないんじゃないかなと思います。
うん、たぶんw


んで、冒頭でも言いました通り、今年はおそらくこれが最後の更新になります。
なかなか思うように進められない1年でしたけども、脳内ミゲルさん発見!という大事件のおかげでw、とても楽しい創作時間が持てた1年でもありました。
焦れ焦ればかりで申し訳ないですがw、また来年も彼らの顔を見に来てやってくださると嬉しいです。

来年もどうかよろしくお願いいたします(∩´∀`@)⊃




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Magnet 37. 「Love is stronger than pride - 愛はプライドよりも強く -」



pin-magnet37.jpg





「―――んん……」

指が頬を滑る感触に、寝ぼけたまま、彼が子供のような甘い声を上げる。
頬から唇にその感触が移動した時、ようやく彼の瞳が開かれた。
彼の瞳を開かせた犯人が、罪作りな笑みを向ける。

「Hi……起きてたの?」
「とっくにね」
「ふぁぁ……あー、いい匂いがする」
「Yeah , エスプレッソを淹れたんだ。それと朝食も」
「No , it’s YOU !」
「Aw !」

ベッドの縁に腰かけるミゲルを引き倒し、男の上半身に自分の上半身を乗せるようにして、ミシェルが男の唇を奪った。
先にシャワーを浴びた男の髪からは甘く清々しい匂いが漂っていて、それが媚薬のような効果をミシェルにもたらすのだ。そのせいで彼は、口付けを止めることが出来ない。
男が笑いながら何とかそれを止めさせ、『シャワーを浴びて来いよ』と言ってベッドから出て行ってしまったので、ミシェルも仕方なくのそのそと起き上がり、バスルームへと向かった。
シャワーを浴び、男の洗いざらしのリネンシャツを借りて、素肌の上にそれを纏った。ケミカルな青白さを一切持たないそのリネンシャツの白みと、洗うだけで完成するまろやかな皺が、薄いカフェ・オ・レ色をしたミシェルの艶のある肌をいっそう引き立てている。
ミゲルのシャツを素肌に纏う。ただそれだけのことで、彼はミゲルに背中からぎゅっと抱きしめられている、そんな気になってしまう。そしてその思い付きは、胸のあたりできゅっと音を立てる甘い痛みを生むのだった。
そしてその甘い痛みには、何度恋をしても、少しも慣れることがない。

「―――このあと、出掛けるか」

朝食を食べている最中に、突然男がそう言い出した。
『このあとどうする?』 今そう言おうと思っていたのに。ミシェルは少し驚いて、すぐに返事をすることが出来なかった。

「えっと、それって映画とか……ショッピング?」
「No」
「じゃあ……美術館とかアート・ギャラリー?」
「No」
「じゃあ……」
「最後にマンハッタンを脱出したのは?」
「!」






「―――君って本当に僕を驚かすことが得意だよね」
「ん?」
「この車だよ。僕の周りで車を持ってるニューヨーカーなんて、二人くらいしかいないから」
「仕事でどうしても必要な時があるから、フィルに買わせたんだ」

そう言って片方の眉を上げるミゲルに、ミシェルが怪訝そうな表情を返す。

「ウォール街で働いてて車が必要? 運転手じゃないよね?」
「もちろん違う」

ここだけの話、と声を潜め、ミゲルが神妙な顔を向けた。

「俺の本当の職業はFed(FBI捜査官)だ。誰にも言うなよ」
「嘘! ちょ、マジで!?」

冗談に決まってるだろ? そう言って笑うミゲルの髪を、仕返しのようにミシェルがくしゃくしゃっと乱す。
窓から流れる景色も、車を運転するミゲルの横顔も、どちらもずっと見ていて少しも飽きることがなかった。
ただ時折、ミゲルがこちらに顔を向けるから、そのたびに彼は、ミゲルの顔を捕えて口付けてしまいたくなる衝動を抑えなくてはならなかったのだが。

シーズン前で、まだ少し風が冷たいからだろうか。日曜日だと言うのに、思いのほか渋滞に巻き込まれることもなく、昼過ぎにはロングアイランドのサウス・ハンプトンに辿り着いた。
なかなかまとまった休みの取れないミシェルは、ここハンプトンズでのヴァカンスを楽しんだ経験が、まだ、ない。
何となくここは、白人の富裕層だけが訪れることを許された町、そんなイメージを持っていたせいもある。
実際は決して富裕層ではないラムカやベティも、夏になるとここを訪れることがある。言ってみれば『ニューヨーカーにとっての避暑地』的な場所なのだが、ミシェルには何となく縁がない場所のような気がしていた。
自然と触れ合うよりも、街の喧噪や人混みから生まれる都会のヴァイブのほうが、彼の肌には合っていたのだろう。そして、そのことに何の疑問も持ったことがない、そんな生粋のニューヨーカーなのだ。
ミゲルお気に入りのイタリアン・カフェで軽めの昼食をとった後、海のそばにあるクリフォード家の別荘に車を停め、ふたりはそのまま砂浜へ降りた。
海から吹き付ける風は少し冷たかったが、とても心地よい。
犬を散歩させる老人とすれ違い様に軽い挨拶を交わし、しばらく砂浜を歩き続けていると、座るのにちょうど良さそうな大きな石が二つ、三つ、といくつか無造作に並ぶ場所に辿り着いた。
ミゲルがそのひとつに腰を下ろしたので、ミシェルもその隣に腰を下ろして、春の匂いを運ぶ潮風を思い切り吸い込んだ。

「海なんて何年ぶりだろ」

ミシェルが眩しそうに瞳を細める。

「君は?ここへはよく来るの?」
「たまにね。逃げ出したくなった時に」
「マンハッタンから?」
「……Yeah」

軽く笑ってミゲルが海の方へと視線を移した。
ミゲルの着ている、空と同じ色をしたブルーのシャツが、吹き付ける風に心地よさげに形を変える。それをぼんやりと眺めていると、懐かしい情景が浮かんで来て、ミシェルの頬を綻ばせた。

「うんと小さい頃、ママンが時々コニーアイランドに連れて行ってくれたことを思い出すよ。体に悪そうなさ、奇抜な色したチョコレート・スプリンクルがたっぷり乗っかったアイスクリームを食べて、メリー・ゴー・ラウンドや観覧車にも乗ったっけ。でも妹が生まれてからは、あまり行かなくなっちゃったけど」
「Why ?」
「わからない……どうしてって訊けなかったから。ママンと妹の父親が上手くいってた頃までは、そういう楽しいこともいっぱいあったんだけど……」

その後は、幸せな子供時代だったとは言えないかもしれない。そう喉元まで言いかけた言葉を飲み込んで、ミゲルの方へと視線を向けた。

「妹の父親がさ、マックスって男だったんだけど、君みたいな青いシャツを海で着てたんだ。それで思い出した」
「……実は俺も『マックス』だったかもしれない、そう言ったら?」
「! そうなの?」
「Yeah , 親父が最初、Maximiliano(マクシミリアーノ)って名付けようとしたらしいんだ」
「! Non ! それじゃ僕と同じ『ミカエル』由来の名前にならないじゃない!タイムマシンで過去に行って、君のダディを全力で止めるよ」
「Oh , じゃあ君が過去に戻って親父を説得してくれたのか」

瞳を丸くして、そうミゲルが笑う。つられて笑いながら、ミゲルに『マックス』と呼びかける自分を想像した。

「でも案外『マックス』も君に似合うかも。何だか強そうな名前じゃない?」
「どうかな」
「ああでも、やっぱり君は『ミゲル』でなきゃ。良かった、マクシミリアン?マクシミリアーノ?にならなくて」
「Yeah」

ミゲルがくつくつと愉しそうな声で笑う。

「その君のダディは? 今どうしてるの?」
「I don’t know , 長いこと連絡を取ってないから」
「!」
「7年くらい前はマイアミに住んでたけどね。根無し草だから、今頃どこでどうしてるんだか」
「僕のママンもそう。男が変われば住むところも変わるひとだから」
「今は?」
「カナダに住んでるよ。いけ好かないフランス男とね」

そうか、と言ったきり、ミゲルは再び海の方をじっと見つめていた。
昨夜、クリフォード家のパーティーから帰宅した後、ミゲルはいつもにも増して口数が少なかった。
母親のナディアと会ったことが原因なのだろうか。そう思ったが、何となく昨夜はその話をすべきではないように感じた。
だからそんな話をする雰囲気にならないように、彼はベッドの中にミゲルのラップトップを持ち込んで、ミゲルと一緒に適当に選んだ映画を観たのだった。(結局、彼は途中で眠ってしまったのだが。)
今なら話してくれるだろうか。ふっとそんな思いが沸いた。

「……訊いてもいい?」
「いいけど、質問による」
「君と君のマムって、何か問題を抱えてるの?」
「Oh , 直球だな」
「ごめん。不快な質問だったなら答えなくていいよ。忘れて」
「No , it’s ok」

ミゲルは言葉を探すようにしばらく海を眺め、やがて静かな眼差しをミシェルへと向けた。

「問題があるってほどでもない。ただ、過去にひどく母を失望させてしまって……それも一度じゃなく、何度も」
「Oh……」
「母にはどうしても理解出来ないことばかりしてきたから。だから時々、ぎくしゃくしてしまうんだ。昨日みたいに」
「……僕たちのこと?」
「……Yeah」

そう瞳を伏せた目の前の男は、ミシェルのように、ゲイであることに誇りを持って生きている類の男ではないのだ。そう改めて認識させられた。
そもそも、ミゲルはゲイと言えるのかどうかさえわからない。何しろ、ミゲルのような男は初めてで、時おり戸惑ってしまう。
それまで、過剰ともいえる愛情表現をする恋人ばかりだったから、それに慣れきってしまっていただけかもしれないが。
けれど、ミゲルからの愛情表現に、物足りなさや焦燥感はもう感じなかった。
愛されたい。彼の愛が欲しい。出会ってからすぐは、そんなことばかり思っていた。いつしか、そう願うことよりも、泉のように湧いてくるミゲルへの愛しさを、きゅっと噛み締めることが出来る瞬間こそ、言葉にならない幸せに満たされるのだと知った。そして、その瞬間を味わう毎に、彼の愛は強さを増している。

「―――Look」
「?」
「……君の家族や友人たちに僕たちのことを理解してもらえないとしたら……そう考えただけですごく悲しい。いや、もちろんあり得ることだけど、実際言葉にしてみると、やっぱり辛いよ」
「……そうだな」
「ねえ、それでも君は僕を遠ざけずにいてくれる………いや、本当のところ、君にはまだ迷いがあるよね。僕たち『おあいこ』だとはまだ言えないし、それはよく解ってる。だから君を追い詰めるようなことはしたくない。だけど……」

そこまで話して、ミシェルはその琥珀色の瞳を、真っ直ぐにミゲルへと向けた。

「これだけは知ってて欲しいんだ」
「?」
「君と一緒にいるだけで……それだけでとても幸せだよ」
「……」
「たとえ世界中を敵に回したとしても、君といられるならそれでいい」
「………ミシェル、俺は―――」
「―――Non , 何も言わないで」

言葉にしなくても、君は瞳で語ってくれるから。今はそれでいいんだ―――男の頬へ手のひらを置き、親指でそうっと男の唇を撫でた。
唇の代わりに眼差しを重ねる。互いの瞳の中に灯ったもの。それを互いに確信した時、男は眼差しを重ねたまま、頬に置かれたミシェルの指を絡め取り、そこへ唇をあてた。

「……Come」




ミシェルの手を引いて、クリフォード家の別荘へと戻る。
中に忍び込むのと同時に、貪るように口付け合った。
当然、ベッドまで行く余裕などない。すぐそこのカウチまでも待ちきれず、暖炉の前、床に敷かれたファーの上で身を重ねた。
広い邸内でミシェルが遠慮なく声を上げる。それを時折唇で吸い取りながら、ミシェルの中で、男も激しさを増した。
やがてふたりの声が、共に切羽詰まったものに変わり、その時を迎える。
息も絶え絶えに口付けを交わし、ふたりは床の上で、いつまでも固く抱きしめ合ったままで離れられずにいた。
やがて整った呼吸を取り戻した頃、男はミシェルの頬へと手を滑らせて、彼の瞳を自分の方へと向けさせた。
もう俺に迷いはないよ、ミシェル―――男のかすれた声に、ミシェルの眦から、澄んだものがあふれて零れ落ちた。




少し眠りに落ちた後、彼らはモントークの灯台まで足を延ばし、美しい夕陽に染まる世界を瞳に焼き付けた。
数時間の後、すっかり闇に包まれた都会に戻り、ミシェルのアパートメントの前にミゲルが車を停める。
忘れられない一日をありがとう―――ミシェルの言葉に、男が柔らかな笑みを返した。見つめ合い、互いの頬に手のひらを添えて、そっと唇を重ねる。
甘く優しいおやすみのキスは、時を忘れたようにいつまでも続いた。
そのうちに、名残惜しそうに男の頬から手を離し、ミシェルが車を降りる。彼が建物に入って行くのを見届けると、ミゲルは静かに車を発進させた。
離れた場所から、彼らの一部始終を見ていた存在に気付くこともなく。






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「Magnet36」更新しました



大変長らくお待たせをいたしました。
ようやく36話のお披露目でございます。


いや、長いことお待たせしてしまった割に「え、こんだけ?」だし、「え、何だかすげーテケトー」だし、もういっそのことこのまま雲隠れしてトンズラしたほうがいいんじゃないかと本気で考えたりもしたんですがね。
それではミゲルファンでもある辣腕編集員Sさまの逆鱗に触れてしまう!と思いましてw(半嘘)
いあ、もう本当に今回は超がつくほどの難産でしてね。
結果、ミゲルさんだけが大活躍するエピソードになっちまいましたよ。
ま、作者も現在ミゲルさん萌えだからいいんですけどねw
(いや良くない良くない、キャラは公平に扱って下さいよNORAさんや)
しかし本当に超超テケトーなやっつけ仕事だわー。
余りにもいい加減すぎて、自分でももうお直しする気すら起きないっていう。
ま、パーティーの内容そのものを描きたかったわけではないのでお許しくだせえまし。
パーティーに連れて来られたミゲルさんのあれやこれや、が書きたかっただけなんでw


ところでタイトルの「光と影」ってのは、お察しかもしれませんが、フィリップさんとミゲルさんの関係性を暗に示してますが、最後、ナディアさんのお部屋でゆらゆらと揺れていたキャンドルが作り出す「光と影」のことでもある、という、ダブルミーニングだったりします。
この親子関係の「影」の部分のことも示唆していたりしますが。
でも気付けばミゲルが「影の主役」になりつつあるしw、なかなかドンピシャのタイトルになったんでね?と自画じーさんになってみる。

そしてようやくミゲルがフィリップの部下というか、右腕のような存在だということが前回明かされたわけですが、ここで種明かし的なものを。
彼の立場と言うか存在は表向きは秘書扱いだけども、実際やってる仕事というのは、隠密にこそこそとライバル会社の動向を探ったり、ゆすれるネタ 交渉の切り札になる黒い事例を集めたり、時にはフィクサーのような仕事もこなす、という、決して表には出れない若干黒いお仕事がメインだったり。
そしてミゲルさん、こう見えて(?)なかなかのオイタをしてきたお方みたいねー。
ヴァレリーさんが執拗に彼を蹴落とそうとしたのには、実は個人的な恨みがあってのことのようですし。彼女は「恨んでない」なんて言ってますけど、仕返ししたかったのね。

あと、フィリップさんとミゲルさんとの会話。
ほんっとお恥ずかしいですが、「超超テケトー」で、捏造もいいとこ!
大体彼らがやってる仕事自体、さっぱり解ってません。作者のくせにw
中西部のシェアが一気に上がる?はあ?何のシェアだよ??って思いながら書いてたって言うね。
ただ何となくお仕事の話させたかっただけなの、見逃してね(はーと)


そしてレイ君やラムカちゃんの弟君のバディの件。
実は何を隠そう、ワタクシの家人にも、子供時代にラムカちゃんの弟君みたいな緑色の友達が存在していたそうなw
「コイツやっぱり頭おかしいんか」と冷めた目で見ちゃったこともありましたけどw、本人は至ってピュアで大真面目。
レイ君のバディはどうやらクリーチャー系ではなく、人間の子供らしいですけどね。
本宅ご存知の方には誰なのかもうバレバレですけどねw


最後のナディアとミゲルのシーン。ここの部分を出すべきかとても悩みました。
と言うのも、この場面はもう少し先に引っ張りたかったんですよね。
でもよくよく考えてみたら、ここで出したほうが自然かも、と思いまして。
夜の祈り、という言葉でお察しでしょうが、彼女は敬虔なクリスチャンという設定。
それを考えると、どうして息子と疎遠になったのか、ってその理由が何となく解ったような解らないような感じかもしれませんw
まあそこらへんの理由はこの先明かされることになると思います。

しかし、今回ミゲルにーさんのためにあったような話だなー。
彼の謎については、大体のところはこれで明かされたと思いますが、一番肝心で一番大切な、最大の謎の解明がまだ残ってます。
そちらは既に執筆済みなので、あとはタイミングを見て出すだけなんですけどね。
まあ話の流れ的にはもう少し先になりそうですが、楽しみに待ってて下さいね。

……ってそればっかりだよねw
前回から4か月と半月ほど間が空いてしまいましたが、次回は出来るだけ早くお出しできるように何とか頑張ります。
あともうちょっと!あともうちょっと頑張れば、ああなってこうなって、あの人がこうなっちゃってこの人がああなっちゃう、ってもごもごもご……



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Magnet 36. 「Light and shadow - 光と影 -」



pin-magnet36.jpg




突然部屋の中に違う空気が流れ込んだように感じ、ラムカは顔を上げた。
同時に「フィル!」というキャサリンの声が響き、その場にいた全員が入口の方へと視線を向ける。
ただいまとおかえりのキスをキャサリンと重ね、その場の面々との挨拶もそこそこに、フィリップはミゲルを伴い、2人で書斎へと姿を消した。
何となく人の気配を感じ、キャサリンが玄関のほうへと行くと、そこにはフィリップの秘書、ヴァレリーが立っている。
いくつかの書類やデータをフィリップから受け取るために寄ったのだと言う。
あなたもゆっくりして行って。お食事もまだなんでしょう?―――そういうキャサリンの言葉に彼女・ヴァレリーは礼を言いつつ、忙しいからと言ってキャサリンの誘いをやんわりと断った。
そのうちにキャサリンの携帯電話が鳴ったので、失礼、と言って彼女は廊下の方へと歩き出し、違う部屋のドアを開けてそこへ姿を消した。







―――「ヴォイテック社の情報収集はどんな具合だ?」
「Yeah、想像以上にハードルが高いよ。広報の人間も政府機関で働いてたって言うかなりのやり手だし、セキュリティ・システムも万全で、どんな些細な情報のリークも許さない構えだな。まあ表向きは、と言うべきだが」
「And?」

当然ながら何も収穫無しってわけじゃないんだろう?―――フィリップがそう言いたげな瞳をミゲルに向ける。

「ひとつだけ判ったことがある。どうやらB&W社を買収しようと動き始めたらしい」
「!」
「B&Wというのはリーク対策のためのガセで、実際は違う会社という可能性もある。まあ今のところ、五分五分ってところだな」
「お前の読みは?」
「Well……俺はガセじゃないかと疑ってる」
「確かに……B&Wを吸収するメリットがいまひとつはっきりしないな……」
「まあB&Wを吸収すれば、中西部のシェアが一気に上がることにはなるんだ。だからあの会社を欲しがる企業は恐らく他にもある。ただ……」
「B&Wの近年の業績から言って、ヴォイテックがそんなリスクを負うとは考えにくい、そういうことか?」

Right―――そう言ってミゲルが片方の眉を上げる。

「……OK、引き続いて情報収集にあたってくれ」

しばらく考え込んだあと、フィリップがそう言って振り返ると、ミゲルが軽く頷くように了解した。

「……それはそうと……」
「?」
「例の男の件はどうだ。あれから進展は?」
「いや……」

例のパーティーで見かけた男のことだ。「彼女」と一緒にいた、あの若い男。
ただの情夫だとすれば調べる必要もない相手だが、あの時感じた直感のようなもの、それが何故だか引っかかるのだ。
ミゲルによれば、どうやら男は現在国を出ているらしいこと、「彼女」との関係を証拠付けるものがまだ見つからないことなどの他、「彼女」のほうも今のところ何の怪しい動きもない様子だった。
そちらのほうも引き続き情報を集めてくれ、と言うフィリップの言葉に再び頷くと、ミゲルはフィリップへと顔を向けた。

「……フィル」
「何だ?」
「………いや、何でもない。忘れてくれ」

この男が『何でもない』とそう口にする時、その口を割らせるのは至難の業だと痛いほどに知っている。だから余程のことでない限りは、そのまま聞かなかったことにしていた。
だからこの時も彼はそうした。ミゲルの表情から言っても、そう大したことではなさそうに見えたからだ。

「ところで、キャスの客としてお前がここにいるのが不思議でならんのだが」
「不可抗力ってやつさ。まあ、久しぶりにレイに会えたからいいけど」
「ナディアには?」
「会ったよ。もちろん」
「もっと頻繁に顔を出してやったらどうだ。彼女はそんなこと口にはしないが、本当は寂しがってると思う」
「……Yeah」
「ああ、そうだ」
「?」
「悪いがこれをヴァレリーに渡してくれないか。玄関で待ってるはずだから」
「何で俺が」
「いいから」

バスルームに行きたいんだ、と言うフィリップに溜息を吐き、ミゲルがフィリップの書斎を出ていく。
長い廊下を抜けて角を曲がり、玄関の方へ向かうと、ミゲルに気付いたヴァレリーが怪訝そうな顔を向けた。

「ここで何してるの」
「パーティーに招待されてね」
「パーティーですって? Hah! 人が休日返上で仕事してるってのにいい気なもんね」
「でもそれを望んだのは君自身だ。俺のせいじゃない」

今では望み通り第1秘書の座に収まったヴァレリーにニヤリとした笑みを向け、ミゲルはフィリップからの書類を彼女に手渡した。

「そして俺を呼んだのはボスの奥方だ。断れると思うか?」
「ふふ、嫌々来たくせに」

書類を受け取りながらヴァレリーが不敵そうに笑う。

「あなたはパーティーなんて大嫌いだもの。そうよね?」
「……」
「でも嫌いなパーティーにせっかく来たんじゃない、今夜もまた酔ったせいにして誰かと寝れば? あの夜みたいに」

彼女は笑顔でそう言うと、ミゲルの視線を捉えたまま、彼の頬に手のひらを置いた。

「……ヴァレリー、君が俺を恨むのは仕方ない。それは解ってる。だけど―――」
「―――恨んでなんかないわよ」

I just hate you ―――ヴァレリーはミゲルの耳元にそう囁くと、ニヤリと笑って彼の頬を手のひらで撫でた。
「ミゲル?」―――その時、ミシェルの声が玄関ホールに響き、ハッとしたように2人が体を離す。

「ここにいたんだ」

声をかけた時、ミシェルからはヴァレリーの姿は見えなかったのだろう。ミゲルのほうへ近付いて、ようやくミシェルが彼女の存在に気付いたように瞳を丸くした。

「Um……ミシェル、こちらヴァレリー。仕事の同僚だ。ヴァレリー、こちらミシェル」
「Hi , 初めまして」
「よろしく、ミシェル」

にっこりと笑って握手をする2人を内心苦々しく思いつつ、ミゲルはいつものように取り澄ました顔を保ち続けていた。
だが、ヴァレリーが何かを言いたげに、ほんの少しだけ眉を上げた表情をミゲルに向けた瞬間、この女にはきっとお見通しなのだろう、そう覚った。
ヴァレリーに限ったことではない。この先、こういう反応を向けられる場面は嫌と言うほどに増えていくだろう。
ミシェルと一緒にいる限り、避けられない反応なのだから。
エレヴェイターに乗り込むヴァレリーを、ミシェルが笑顔で見送る。そんな彼を見つめ、ミゲルは彼に気付かれないくらいの小さな息を漏らした。

「―――先に戻ってて!」

唇に軽くキスを残し、ミシェルがバスルームの方へと姿を消した。
その後ろ姿を見送ると、ミゲルはもう一度小さく息を吐き、リヴィングルームのほうへと踵を返した。








彼女が仕事の電話をようやく終えて廊下へ出ると、ちょうど寝室から夫が出てくるところだった。
夫はスーツを脱ぎ、先日彼女が拝借したあの淡いピンク色のカシミヤのセーターに着替えている。
そのピンク色のセーターは、クローゼットで見た女からのメッセージを思い出させるのに充分だった。
あの時のことを思い出すと、一瞬にして目の前の夫への不信と憎しみに似た感情が沸き上がってきてしまう。
いや、あの時のことを思い出さずとも、ここのところ、彼女の頭の中はあの女のことでいっぱいなのだが。

「レイはまだ起きてるよな」

そう言って息子の部屋へと向かう夫を見送る。咄嗟に笑みを張り付けたが引き攣ってはいなかっただろうか。
やがて息子を連れ、フィリップがリヴィングルームへと姿を現した。
大人たちに可愛がられ、楽しそうにはしゃぐ我が子の顔を見つめる時、その時だけは彼女はふっと柔らかな気持ちになれる。
リヴィングルームのすぐ隣、メインダイニングに行く途中の、部屋とも呼べないが通路と呼ぶには広すぎるスペースがあり、そこにピアノが置いてある。
レイを膝の上に乗せたミゲルがピアノを弾き、ラムカが隣に座って連弾のようなことを始めたので、ミシェルが瞳を輝かせてミゲルを見つめ、そんな彼をベティがからかった。
ベティには、ミシェルの瞳がハートの形に変形したように見えて仕方ないのだった。
そのうちに、空いた大皿を手に、ショーンがそのピアノの横を通り過ぎる。通り過ぎる時、ちらりと彼女を見ると、楽しそうに笑ってピアノを弾いていた。
こんな笑顔は未だに自分のために向けられたことがないな―――そんなことを頭の隅に思いながら、彼はキッチンに向かった。

「――――ねえ!あとひとり足りないよ!」

突然レイが大きな声を上げた。

「レイ?」
「あと一人?誰が?」

ミゲルとラムカがレイに声をかけると、レイはミゲルの膝を下りて父親の足元へと走った。

「ねえダディ!あとひとりなんだ!」
「What ?」
「もうひとりで『ぜんいん』そろうんだってバディが言ってる」
「全員揃う?」

時々こういう不思議なことを言い出す息子にキャサリンもフィリップも慣れてはいたが、正直言って対応に困ってもいた。
子供の頃には不思議なものが見える子もいる。成長するに従ってそういう不思議なものは見えなくなっていくはずだ。
まだ比較的、父親のフィリップはそう楽観していたが、キャサリンには『息子には何かしらの脳の障害があるのではないか』という気がしてならなかった。
それで病院で検査を受けさせたこともあったのだが、その結果、何も異常は見つからなかった。

「―――ポールだ!ねえ、ポールがここにいたら『ぜんいん』がそろうんだよ!」
「ポール? ポールって、あのポール?」

ベティとミシェルが顔を見合わせて瞳を丸くした。
そこへキッチンからショーンが戻ってきて、レイの髪の毛に手を置いた。

「Hey , 全員揃ったとして、俺たち一体何のチームなんだい?」
「それはわからないけど、だけどバディがとてもうれしそうだよ」
「バディね……」
「レイ、もうそろそろ寝る時間よ。皆さんにおやすみを」
「おやすみレイ」
「おやすみ」
「あ、私が……」

ラムカがレイの手を引き、寝室まで連れて行く。
毛布をかけ、髪の毛にそっとキスをすると、レイが真剣な眼差しでラムカの瞳をじっと見つめ返した。

「ねえシェリー、ぼくの言ってることしんじてくれる?」
「え?」
「ダディとママにバディのこと言っても、はんぶんしかしんじてくれないんだ。まじめにきいてくれないの。バディはぼくの『しんゆう』なのに」
「……ええ、信じるわよ、レイ」
「ほんとう?」
「Yeah !  実はね、私の弟にも小さい頃、バディみたいな親友がいたの。緑色の苔に覆われたような、体の大きな不思議な生き物だって弟が言ってた」
「バディは人間だよ。黒いかみのけに白くてみじかいふくをきて、きんぴかの『うでわ』をした男の子なんだ」
「そうなのね」
「きみのおとうとのバディはまだそばにいてくれる? さびしいときにあそんでくれる?」
「……私の弟のバディはもういなくなってしまったの。きっとおうちに帰ったんだと思う」
「いやだよシェリー!ぼくのバディはおうちに帰ったりなんかしないよね?ずっとぼくのそばにいてくれるよね?」

ラムカはレイの額にかかった前髪をかきあげて、彼に静かな微笑みを返した。

「ええ、きっとそばにいてくれる。何故なら、きっと彼にもあなたが必要なのよ、レイ」
「ひつよう?ぼくが?」
「そう」

あなたが彼を必要としている限り、彼もあなたを必要としてくれる―――ラムカの言葉に瞳を見開くと、レイは嬉しそうに笑った。









やがてパーティーはお開きの時間になった。ベティ達も、後片付けまでしてから帰る、と言うショーンを手伝うことになり、キッチンがいつになく賑やかだ。
そんな彼らをよそに、ミゲルはひとり、母親のナディアの部屋に向かっていた。
部屋をノックすると、ナディアは、ミゲルの顔を見て一瞬驚いたような表情を浮かべたが、入室を許すように首を軽くかしげてみせた。
母は眠る前の祈りを捧げるところだったのだろう。いくつかのキャンドルを灯し、祖母から持たされたというロザリオを手に巻き付けるようにしていた。

「―――そろそろ帰るよ」
「……そう。気を付けて帰りなさい」
「Thanks」

そう言うと、ミゲルは再び母親をハグし、白いものが割合を増してきた彼女の髪に、そっと唇を置いた。

「……マム」
「?」
「……失望させてばかりで……本当にごめん」
「……」
「でも―――」
「―――本気なのね?」
「……」

母の言葉に否定も肯定もせず、ミゲルは俯いて、ただ母親の腕をそっと撫でさすった。そしてそれは、『解ってほしいんだ』と訴えているように映った。
ナディアの瞳に、そんな息子を責めるような、それでいて、何かを諦めたような色が宿る。
彼女は小さく息を吐くと、息子の顎先をつかむように指をそこへ置いた。

「もう行きなさい」
「……Yeah」

I love you , Mom ―――もう一度母を抱きしめ、息子は静かにそう言うと、母の部屋を後にした。








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「Magnet35」更新しました


ひゃー!

とうとうシェイクスピア先生の虎の威までお借りしてしまったわーw


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Magnet 35. 「Much ado about nothing - から騒ぎの夜 -」





pin-magnet35.jpg






アッパーイースト  7:15 p.m.


「―――No , no no , その件ならアトリエにきちんと伝えてあるし―――Oh , No , それは変更なしでって話はついてるはずよ?」
「そこにこの小さいタルトを並べてもらえるかい?」
「こんなかんじ?」
「Yeah , good , もう少し間隔空けて―――そう」
「―――それじゃ何も進んでないってこと?」
「―――OK , じゃあ次はタルトにこれとこれを乗せてってくれるかい?こんな感じで―――」
「うん、わかった」
「――――Ok , すぐに確認して連絡するわ」
「赤いやつを上に見えるように置いてみて。そう、いい感じだぞレイ」
「えへへ」
「―――ちょっと仕事でトラブル発生みたい。失礼していい?」
「Yes , of course」
「Bye , mom」

レイは、ため息をつきながらキッチンを出て行く母親の背中にそう声を掛けると、たどたどしい手つきでショーンの指示通りに手伝いを続けた。



本来なら休みであるはずの土曜日。彼は雇い主に頼まれ、軽いホームパーティーの料理を用意している。
招待客の1人であるにも関わらず、仕事もしているのだ。もちろんこれには特別報酬が支払われることになっている。
土曜日にいるはずのないショーンが仕事をしているので、レイが大はしゃぎでキッチンに姿を現し、手伝う、といって聞かないのだった。
当然ながら一人でも手を貸してくれるのはありがたいのだが、5歳の子供に難しい手伝いはさせられない。
見かねたキャサリンがレイを連れ戻しにキッチンにやってきたのはいいのだが、仕事の電話がひっきりなしにかかってきた挙句、トラブル発生だと言って結局は出ていってしまった。
さて、次は何を手伝ってもらおうかな―――と考えを巡らせる余裕もなくなってきた。レイの相手までしているせいだとは思いたくないが、思った以上に作業に時間がかかってしまっているのだ。
仕事絡みや緊張する相手を招待しているわけでもない気軽なパーティーなんだし、とキャサリンは言うが、ホームパーティーとは言え、報酬を貰う以上、手を抜くわけにはいかない。
そんなことはプロとして彼のプライドが許さない。いや、そんな当たり前のこと以前に、顔見知りが集まるからこそ、軽くつまめる食事ばかりと言えど、決して手抜きはしたくないのだ。

「―――Hi , guys 」
「Hi , Sherry」

そこにタイミングよくラムカが現れたので、ショーンは心底ホッとしたような顔で彼女を振り返る。

「レイ、シェリー先生にもそれを教えてやって。一緒にやったらきっと楽しいぞ」

『は?』と言う顔を向ける彼女に、ショーンがこっそりと『Please』と声に出さずに懇願する。

「Uum……Wow ! レイ、お手伝いしてるの?偉いのね」
「うん。―――そうだ!ぼくの『じょしゅ』にしてあげるよ、シェリー」
「Ok , thank you !」

得意げな顔のレイにぷっと軽く吹き出しそうになるのを堪え、彼女は上着を脱いでレイの傍に立った。

「うんとね、こうやってね、これをまずはタルトに乗せるの。こぼさないように少しずつだよ」
「こう?」
「ちがうよ、この赤いのをうえにするんだ。ちゃんとぼくのをみててよ」
「Oh , それは失礼しました、スー・シェフ」
「すー?」

くっくっく、と笑いを漏らし、ショーンが振り返る。

「Ok , 上出来だ。助かったよ、レイ。ありがとな」
「えー、もうおわり?」
「今のとこな」
「Ok , またいつでもよんで、シェフ」
「Yeah , I will」

そう言って彼はレイの頭を撫でるとにっこりと笑みを向けた。
キッチンから出ていくレイの後姿を見送り、ラムカが作業台に両手をついてきょろきょろ、とそこに乗せられたものを見渡す。

「それで?次は何をすればいい?」
「Uum……じゃあそこの天板のアボカドをこの皿に並べてくれるかな。整然と並べるんじゃなくて、散らす感じで」
「Alright」

結局は手伝うことになるのよね、と言いたげな顔で肩をすくめ、彼女はショーンの指示通りにアボカドを皿に並べ始めた。







「―――ええ、そうしていただけると助かるわ。そうね、じゃあその件も確認して折り返し連絡するわね。Bye」

廊下をウロウロ歩き回りながらの電話を終え、ふーっと息を吐いてしばしあれこれと考えを巡らせる。
ある程度考えがまとまり、まず初めに連絡すべき先の番号を探していると、エレヴェイターの到着する音が聞こえた。
間を置かず、すぐに玄関ドアのベルが鳴ったので、『私が出るわ』と奥の部屋にいるナディアに聞こえるように言い、彼女は足早にドアの方へと向かった。
ドアを開くと、そこに立っていたのは、ワインボトルを手にしたミシェルだった。

「Hi Cath , お招きありがとう!」
「ミシェル!いらっしゃい!」

キャサリンはミシェルと抱き合って頬にキスを重ね、ミシェルの後ろに立つ男の顔を見て瞳を丸くした。

「ミゲル!」
「Hi Cath」
「Hi ! 久しぶりね、ミゲル!」

2人が親しそうに頬にキスを重ねるのをミシェルが驚いた顔で見ていると、キャサリンも、ミシェルとミゲルの2人を交互に見遣り、驚いた表情を浮かべている。

「えっと……えっ?えっ? ちょっと待って! まさか……あなたたち……!?」
「Um……Well , It’s a long story」
「Oh my God !」

キャサリンがさらに驚いたような声をあげて胸に手をあてた。
ほら、だから来たくなかったんだ、そういう顔でミゲルがミシェルを振り返る。
同行を拒むミゲルと、大切な友人だから会って欲しい、と懇願するミシェルとの間で、ここ数日、激しい攻防戦が繰り広げられたのだった。
結局は渋々とミゲルが折れた。誘いを断れば、ミシェルの顔を潰してしまうことになるからだ。
当然そんなことなど知る由もないキャサリンが、ああ私ったら、と声を上げた。

「とりあえず入って。好きなものを飲んでゆっくりくつろいでてね。Oh ! 2人とも!あとでじっくり話を聞くわよ! ちょっと失礼」

そう言ってキャサリンは奥のほうへと姿を消した。
連れ立って奥のリヴィングルームへ歩き出そうとしたところで、子供の笑い声がしたので、ふたりはその声に振り返った。
レイだった。

「ミスター・アンダーソーン!」
「?」
「Ciao! Ray !」
「??」

走ってきたレイを、それまで見せたこともないような満面の笑顔で抱き上げ、レイの頬にキスをする。ミゲルのその様子を見て、ミシェルはまるで違う人間を見ているような気になってしまった。

「ご機嫌麗しゅう、殿下」
「うむ。くるしゅうない」
「はは…」
「ねえねえ、また公園で遊ぼうよ、ミスター・アンダーソン」
「いつでもお相手いたしますよ、殿下」
「Hi , ミシェル!きみもきてたんだね」
「Hi ! 元気そうだね、レイ」
「―――坊ちゃま、今はそっちに行っちゃいけません、こちらに!」

その声に振り返ると、声の主はナディアだった。
仕方なくミゲルはレイを床に下ろし、「また今度、殿下」と笑って、髪の毛をくしゃっとするようにレイの頭を撫でた。
ナディアはレイの背中を子供部屋の方へそっと押しやると、ミシェルとミゲルを交互に見遣り、少し硬い表情をミゲルに向けた。
ミシェルがナディアに挨拶しようと口を開きかけた、その時だった。

「……Ciao Ma (やあ、母さん)」

ミゲルがそう言ってナディアを軽くハグし、彼女の頬に挨拶のキスをした。

「……」

それには答えず、ナディアは硬い表情のまま、何かを言いたげにミゲルを見つめている。
そして彼女は小さく息を吐いて瞳を伏せると、今度は慈愛を滲ませた瞳で、ミゲルの頬を軽くぽんぽんと叩くように手のひらを沿わせ、レイの後を追うようにその場から姿を消した。
「Are you alright ?」―――ミシェルがミゲルに心配そうな顔を向ける。
来てしまったものは今さら仕方ないよ、とでも言いたそうにミゲルが肩をすくめた。
その場から立ち去るようにミゲルが歩き出したので、ミシェルもその後を追ってリヴィングルームへと移動した。


「―――ミスター・アンダーソン?」
「Ha」

シャンパンの入ったグラスを手渡しながら、ミシェルが怪訝な顔を向けると、ミゲルが短く笑った。

「またひとつ、君の謎が増えたよ」
「謎?」
「そう。君って謎だらけの男だから」

まあ、そこがセクシーなんだけど―――誰も周りに居ないのをいいことに、ミゲルの腰を引き寄せ、こっそりと口付ける。

「じゃあ最新の謎を明かそうか」
「うん?」
「これはレイのお遊びで、彼にとって俺は、アンダーソンって名の架空の護衛人ってわけさ」
「架空の護衛人?」
「Yeah , どうやら彼にとっては架空じゃないらしいけど。まあ、この話は長くなるからまたそのうちに」
「あ、さっきのメイドのご婦人も!君のお母さんだったなんて驚いたよ。それでキャスやレイと親しかったんだね」

ミシェルの言葉に『Uum……』と口ごもったあと、ミゲルが軽く笑うように息を吐いた。

「……キャサリンの夫が俺のボスでね」
「! どうして黙ってたの?」
「別に秘密にしてたわけじゃない」

これで俺がここに来たくなかった理由が解ったろ?―――ミゲルがそう言って苦笑した。
ミゲルと母親のナディアには、何かわけがありそうにも見えたが、今それを口にするのは無粋だろう。
ミシェル自身、母親のアンヌとの間に、時に愛情だけでは解決出来ない複雑なものを抱えてきたのだ、理解出来る。

「まあいいや。今だけでもいくつか君のことを知ったし」

気を取り直したようにミシェルが頬にえくぼを浮かべると、キッチンの方から大きな皿を持ったラムカがリヴィングルームへと姿を現した。

「ミシェル!」
「Hi ! My Princess !」

大きな皿を窓際のテーブルに置き、ラムカはミシェルと抱き合って頬にキスをした後、ミシェルの後ろに立つ男に目線を向けた。

「ああ、ラムカ、彼がミゲル。ミゲル、こちらラムカ」

想像以上にグッド・ルッキングな男だったので、ラムカがミシェルに『Wow !』と言いたげな驚いた顔で目配せをする。
ラムカとミゲルがよろしく、と握手をして少し話をしていると、少し遅れてショーンがそこに料理を運んで来た。

「あれ、お前も来てたのか」
「お、酔っ払いのお出ましか」
「うるさい、まだ飲んでないぞ」

ミゲルとショーンが笑いながら抱き合って男同士の挨拶を交わし、ラムカだけが『?』という顔でそれを見ていると、ミシェルがショーンへと手を差し出した。

「この間は失礼。彼女を置き去りにして悪かった」
「ああ、あのあとマジで大変だったんだよ。詳しく聞く?」

ちょっと!―――不服そうにラムカがショーンの腕を軽く小突き、彼の背中を押すようにしてキッチンに再び姿を消した。

「ビックリしたー!本当にすごいハンサムなんだもの!」
「?」

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながら、ラムカが驚いたように呟いた。

「あー、ミシェルの勝ちかも。でもほんとフェアじゃないわよね」
「? さっきから何の話?」
「ミシェルの新しい彼氏のことよ。さっきの彼」
「What !? ミゲルはゲイじゃないぞ?」
「What !!? そんなはずない」
「ちょ、マジで?付き合ってるの?あの2人?」
「そうよ。ミシェルったらもうすっかり彼に夢中なんだから」
「Oh Jeez……いつもいい女連れてたあいつがねえ……」
「そうなの?」
「そりゃあもう」

あいつが通りを歩くだけで、マンハッタンじゅうの女が色めき立つんだぜ?―――そうショーンが肩をすくめた。同じ夜に同じ女を口説き、ミゲルに負けた過去があることは言わずにおいたのだが。

「ねえ、ミシェルには黙ってて。彼、きっと凄いショック受けるから」
「解ってる。言えるわけないよ」
「あなたと彼が知り合いだなんて、それもびっくりだわ」
「こっちのセリフだよ」
「知り合って長いの?」
「そうだな……7、8年ってとこじゃないかな。もともとはフィルを介して知り合ったけど、気が合ってね。いい奴だよ」
「ふーん……」

その時、『Oh my gosh !』というベティの大声がキッチンまで聞えたので、ラムカはリヴィングルームの方へと顔を向けた。

「―――あの時の彼よね?レイのボディガードみたいな、ホラ、うちのサロンにティナを迎えに来たでしょ?レイと一緒に」
「Uum , yes」
「えっ!?君がうちのサロンに!?いつ!?」

ミシェルが『そんな話は初めて聞いた』とばかりに驚いた顔をミゲルに向ける。

「まだ寒い時だったわよね?あなたあの時、確かサングラスかけてて」
「そうだったかな」
「そうよ、あの日よ。忘れもしないわ。浮気された最悪の日だもの!」
「Oh」
「ほら、ミシェル、同じ日にラムカも幼稚園クビになっちゃってさ、あの日よ。憶えてるでしょ?」
「あー……」
「――― B !」
「ラムカ」

そこに現れたラムカがベティとハグをしたので、ミゲルはようやく解放された。

「ちょっと手伝って―――Excuse us !」

そう言ってラムカがベティの背中を押すようにキッチンへ連れて行く。キッチンへ行くとそこにはショーンがいて、料理の盛り付けをしていた。

「Hi Sean」
「Oh , Hi Betty」
「こないだはこの眠り姫の面倒みてくれてありがとう」
「Yeah , その埋め合わせに手伝いに来たのかい?」
「もっちろーん!」
「いいから!ちょっとこっち来て!」
「なになになに」

ラムカがキッチンの隅にベティの手を引っ張って移動した。

「Look ! ミゲル、どうやらバイ(バイセクシャル)みたいなの」
「あらま。そうなの?」
「ううん、バイかどうかは解らないけど、少なくとも以前はストレートだったみたい」
「……ってことはさ、あたしでもOKってことよね? やった!」
「なにバカな事言ってんの、いい?ミシェルには言っちゃだめよ」
「ん?ミシェルは知らないの? じゃあいったい誰の情報?」
「俺」

ショーンが真剣な表情で料理にソースをかけながら言う。

「お嬢さんたち、ガールズ・トークはパントリーの中で頼むよ。気が散るから」
「Oh , sorry」
「もう終わったわよ。あーっ!運ぶ運ぶ!貸して!」

盛り付けた料理を運ぼうとするショーンのもとへとベティが走り寄り、「美味しそうー!」と言いながら、受け取った皿をリヴィングルームへと運んで行った。
笑いながら、やれやれ、といった感じで首を振り、彼がベティの後姿を見送る。

「とりあえずこれで終わり?」
「ああ、あとは様子見ながら追加していくよ」
「OK」
「Hey」
「?」
「……Thanks」
「……Anytime」






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