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チャプター3開始です


CIMG0640-2.jpg

タイトルはまたお遊びです。「ティファニーで朝食を」が何となく浮かんだので・・・(笑)


それから最初にお断りしておきます。
" 「Wha ? (何よ)」" ってあれはスペル合ってるかどーか解りません。
映画観てると友人同士なんかではみんなして「ワ?」ってそれだけ言ってるみたいなんで取り入れてますけど。
一時期、HIP-HOPなんかでも「Phat」って表現が流行ってたし、その延長なのかな?よー解らん。
(「What?」自体が流行ってたよね。「なぬっ?」ってやつ)
「No」を「Nah」ってぞんざいに言うみたいに「What?」を「Wha?」って言ってるのかな、って勝手に思って
書いちゃってますけど、もしご存知の方がおいででしたら教えて下さいまし。
それによっては修正を入れねばなりますまい(笑)

さてさて。
無事にラムカさんの小姑たち(笑)としょんちゃんが顔合わせをしたところで今回はお仕舞い。

GWは1・2・3・4日と居りませんので、色々とお返事が遅れることになるやもしれません。
ご了承くださいませ。

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Category: Notes

Magnet 20.「 Chai party at the Palace - 宮殿でお茶会を  - 」



Magnet 20.

「 Chai party at the Palace - 宮殿でお茶会を  - 」


stockx-magnet20.jpg



愛用のルイ・ヴィトンのメイクアップ・ケースを持つ右の手も誇らしげに、彼はキャブを停めるため、勢いよく
左の手を上げた。
赤毛の助手と連れ立って颯爽とキャブに乗り込み、ターバンを頭に巻いた運転手に行き先を告げる。
「パーク・アヴェニュー、71丁目まで―――」



「ラムカ、びっくりするかな?」
「それもそうだけど、『彼』に会えるほうが楽しみー!ふふっ」

クラシカルなエレヴェイターの中で赤毛の助手がはしゃぐ声が響き、彼はやれやれ、と言った顔で隣の助手を
見下ろした。

「・・・B、胸元開きすぎ」
「そういう服だもん」
「で?どっちの『彼』目当て?」
「Both ! (どっちも!)」
「・・・Ah・・・」

彼が呆れて首を振った時に、エレヴェイターが15階に到着した。


「奥様がお帰りになるまで、どうぞこちらでごゆっくりと」

出迎えたメアリーが二人をリヴィング・ルームのソファーに案内した。
座ることも躊躇われるほどの高級そうなソファーだ。
堂々とした態度のミシェルとは対照的に、ベティは落ち着かない様子で、あちこちきょろきょろしながら何度も
紅茶のカップを口に運んでいる。

「いかにもアッパー・イーストの住人の家、って感じ」

でもあたしの趣味じゃないや、ベティの声にはそんな思いが感じられる。

「髪の毛一本、ううん、まつ毛一本落とせないよね、これじゃ」
「そう思うなら "まばたき"やめれば?」
「ひえー、ラムカって毎日こんな空間で過ごしてるんだ」
「君だってあと5分もすれば慣れるよ」

ミシェルが軽く笑って紅茶をひと口、喉に流し込んだところで、賑やかな声が聞こえて来た。キャサリンの声だ。
二人は立ち上がって少し緊張した面持ちで彼女の到着を待った。

「Hi ! お待たせしたわね」
「Hi , キャサリン」

ふたりは続けてキャサリンの頬にキスを重ねた。
向こうのほうでは、彼女のアシスタントであるティナ(ミス・ベネット)の姿や、カメラ・バッグを抱えた男や
その助手とみられる男、おそらくライターだと思われる女性などが賑やかに話を続けている。
それぞれと挨拶を交わし、早速ミシェルとベティの『仕事』が始まった。
今日のふたりの仕事。それは、雑誌の取材を自宅で受けるキャサリンが、ヘア・メイクとネイルをそれぞれふたりに
オーダーしたものだった。ベティにとっては、初めての「出張」というやつだ。
ダイニング・テーブルの椅子に腰掛ける彼女と雑談しながら、ミシェルが彼女の顔にブラシを走らせ、ベティが指先に色を載せる。
彼女らの周りでは、ジェイク、と名乗ったフォトグラファーの男がカメラをセッティングしたり露出のチェックなどを
していて、エマ、と名乗った雑誌のライターはティナと雑談を続けている。
始終リラックスしたムードで、どこからともなく冗談や笑い声が飛び交っていた。



ヘア・メイクとネイルが終わり、ジェイクがまずはデジタル・カメラでテスト撮影を始めた。

「もう少し、唇の色を濃い目に出来る?」
「Sure ! 」

デジタル・カメラをチェックしたエマがミシェルにそうオーダーし、彼がキャサリンのルージュの色を手直しする。
皆であれこれ意見を言い合い、それをかたちにしていく作業を見守るようにベティとティナが話をしていると、子供のはしゃぐ声が聞こえてきたのでそちらに目を向けた。

「ママ!ただいま!」
「お帰り、レイ。さ、皆さんにご挨拶して」
「ちょっと! どうしてここにいるの!?」

レイとキャサリンの会話を横目に、ラムカがすっとんきょうな声を上げた。
「今日、ママが家で『ざっし』の『しゅざい』をうけるんだって」――レイからそう聞いてはいたけれど、まさかミシェルと
ベティがそれに参加してるなんて!
昨日ふたりと電話で話したばかりだったのに。さては彼女を驚かそうと秘密にしていたらしい。


「初めまして、レイ。僕はミシェル。よろしくね」
「はじめまして、ミシェル!ママを "へんしん" させたひとだね?」
「ハーイ!また会えたわね、レイ。元気にしてた?」
「うん!君こそげんき?ベティ」

リヴィング・ルームに移動したクルーの邪魔をしないよう、ラムカたちはダイニング・ルームで彼らの様子を
覗き見するように時を過ごしていた。
レイと初めて会ったミシェルは早速彼に懐かれ、メイク道具に興味津々のレイを膝の上に載せながら、
レイの手にした道具の説明をしている。
レイは大きなフェイスブラシを頬にくるくる、と滑らせたり、ビューラーで遊んでみたり、くるくると細かくねじったミシェルの髪の毛を更にねじってみたり。
それを見て笑いながらラムカとベティが立ったままお喋りをしていると、そのうちに飽きたのか、レイがミシェルの膝を降りた。

「ママのところへ行ってくる!」
「邪魔しちゃダメよ、レイ!」
「うん、わかってるー」

リヴィング・ルームのほうへ駆け出すレイを見送ると、入れ替わりのように「Hi , guys ! 」とリヴィング・ルームのほうから声が聞こえた。ショーンの声だ。
思わず、ラムカは友人達の前で、身構えるように背筋を伸ばした。
ダイニング・ルームに入って来た彼に、ラムカを除く二人の視線が一気に向う。
あれ?この間の酔っ払いの男?―――ラムカから聞いていた "ショーン " と先日バーで見かけた "ショーン " が
同一人物だった偶然に、ミシェルは思わずあっと声を出しそうになった。
どう挨拶しようかと一瞬思案した彼に、むくむく、と悪戯心が湧き上がった瞬間だ。

「Oh」

Hi , guys と言いかけるショーンに、ベティが早速右手を差し出した。

「Hi , ベティよ。あなたがショーンね?よろしく」
「Hi , よろしく、ベティ」
「ラムカからいつもあなたのこと聞い――痛っ!」
「――ショーン、こちらミシェル。ミシェル、こちらショーン」

わき腹を突付かれたベティがちょっと!という顔をするのを無視して、ラムカがミシェルをショーンに紹介すると、
ミシェルはゆっくりと優雅な物腰で椅子から立ち上がった。

「Hello , gorgeous !* (ハロー、ゴージャス!) ミシェルよ。ラムカとはキスはしたけど、それ以上はなし。
つまり、友達以上恋人未満の仲なの。よろしく」
「・・・よろしく」

「オネエ言葉」で小首をかしげるミシェルにショーンは一瞬面食らったようだが、先日出会った酔っ払いはどうやら
ミシェルを全く憶えていないようだ。
ミシェルがこんなことをするのはもちろんわざとだ。
ラムカが呆れた顔で彼を見たが、彼は意に介せず、どう?と言わんばかりに眉をくい、と上げた。
ベティは笑いを堪えて肩を震わせている。
女友達の前にしつこく誘う男が現れた時、彼は彼女たちのためにキスをしたり恋人の振りをしたりして男を追い払うことがあるのだが、逆に誤解を解くために、ゲイだと解らせようと今みたいにそれらしく振舞うこともある。
それとは別に、ストレートのいい男を前にした時に、からかうようにこうやって反応を楽しむこともある(彼によると、時々バイ・セクシュアルが混じっていることもあるので、決して無駄にはならないそうだ)。
さて、彼が今「オネエ言葉」を使ったのは一体どの理由からか。
いずれにせよ、ラムカがうんざりとした顔でいるのは、ベティとミシェルがふたりとも、わざとらしくうっとりとした顔で
ショーンを見つめて彼を困らせているからだった。

「・・・あー・・・じゃあ、仕事があるんで・・・」

そう言って彼がキッチンに逃げて行くと、早速ベティがラムカを捕まえて小声で耳打ちした。

「Oh my gosh !! He's sooooo―― hot !! 」
「・・・あっそ」
「ふーっ!」

息を吐きながら手のひらでベティが顔を扇ぐ。いちいちわざとらしいんだから。
ああ、と呆れて天井を見上げた彼女がベティとミシェルのほうに視線を戻すと、二人してにやにやしながら
目配せをし合っている。

「Wha ? (何よ)」
「あー、何だか喉が渇いちゃったー。ね?ミシェル」
「Yeah , そうだ、マサラ・チャイ*なんか欲しいとこだねー」

ミシェルにウィンクされて嫌だと言える人間がいるだろうか。何と言っても彼は大天使なのだし。

「・・・仰せの通りに、大天使様」



コンコン、とキッチンの入り口の壁を叩くと、その音にショーンが振り返った。

「入っていい?」
「? もちろん。何で訊くのさ」
「あなたの聖域に邪魔をしに来たから」
「聖域?」

軽く笑う彼につられて彼女も軽い笑みを返す。

「本当に邪魔をしに来たんだけど、いいの?」
「どういうこと?」
「ここにあるスパイス全部、見せてくれない?」


野菜の下処理をする彼の横で、彼女が小さい鍋に紅茶を煮出し始める。
シナモンやクローブや何かの良い匂いが漂い始めていた。

「・・・友達以上恋人未満の彼のため?」
「え?」

ああ、と彼女が彼のその言葉に呆れたように笑う。

「さっきはごめんなさい、友達があなたをからかったりして」
「あれってからかってたの?てっきり・・・」
「?」
「・・・」
「Wha ? (何よ)」
「・・・Nothing (別に)」

そこで会話はあえなく終了した。


あれから二週間。相変わらずこんな調子で、ふたりの会話ときたら何の進歩もなく、依然ギクシャクとしたままだ。
ラムカの笑顔と、ありがとうやごめんなさい、といった素直な言葉は増えたようだったが、そこから長い会話に
発展することはなかった。
口を開けば喧嘩になりそうな気がして、互いにそれを回避するために会話自体を避けている、そんな感じの毎日だ。

けれどその日はいつもと少し違う展開を見せ始めようとしていた。
スパイスの香りが心までも開かせるのかもしれない。

「・・・んー、いい匂いだ。気がそっちに行っちゃうよ」
「飲む?結構甘いけど」
「Yeah , thanks 」

ティーストレーナーで茶葉やミルクの膜を漉して、インド風にグラスに注いだチャイを彼に差し出す。
ふわり、と香るスパイスが彼の鼻腔を優しく刺激した。

「Oh , too sweet ! (甘すぎ!)」
「言ったでしょ?」
「あー、でも美味い!」
「本当?」
「Yeah」
「マサラ・チャイは絶対に甘い方が美味しいの。そうしないとお茶がミルクに負けてしまうから、
ぼんやりとした味になっちゃう」
「なるほど」
「どうしても甘いのが嫌なら、ミルクなしで飲んでも美味しいのよ。これも本当はもっとスパイスが効いてるんだけどね。カルダモンがなかったから、香りが弱くて残念」

そう言ってマグカップを二つ手に持ち、彼女がキッチンを出て行く。鍋を覗くと、彼女の分が残されていなかった。
どうやら自分がそれを奪ってしまったらしい。
甘いものは苦手な彼だったが、これはいける、そう思った。

飲み干してしまうかしまわないかのうちに彼女が戻ってきて、今度は大きな鍋を取り出した。
リヴィング・ルームで取材をしているクルーやキャサリン親子、メアリーの分までもう一度マサラ・チャイを淹れるのだと言う。
普段自分で料理をしていると判る手付きだった。たとえそれが料理でなくチャイを淹れる、というだけでも、一連の動作を横目で見ていればそれ位のことは判る。
セントラル・パークで言い争ってしまった時、半分冗談で「美味いカレーを食わしてくれ」と彼女に言ったことがあったが、ふっと、本当に食べてみたい、とそう思った。
ただしそれはあくまでも、インド料理という彼のレパートリーにはない領域に対する興味からであって、「彼女の手料理が食べたい」という理由からではない。
だがそれを口にする勇気はない。この間そう言うと「絶対に嫌です」と返事が返ってきたし、純粋に料理に対する興味だけだ、と言い訳するのも何だか失礼な気もする。
ごちゃごちゃと頭の中で勝手に言い訳がましいことをこねくり回している間に、出来上がったマサラ・チャイをトレーに載せて彼女がキッチンを出て行く。


ラムカと入れ替わりに、ミシェルが空いたマグカップを手にキッチンへ入って来た。

「Hi 」
「? 」
「さっきはごめん、からかったりして」
「? ああ、いいんだ。面白かったよ」

そうショーンが笑うのにつられ、ミシェルの顔にも笑みが浮かぶ。
まさかここであの日の彼に出会うとは思いもしなかった。ここのところミシェルの心を蝕んでいる男のことを、
嫌が上でも思い出してしまう。

「・・・ミゲルと・・・知り合いなんだね」

彼はつい我慢出来なくて、そう訊いてしまった。

「? ミゲル? ミゲルって・・・あのミゲル?」
「きっとそのミゲル。ラスト・ネームは知らない。この間、ウエスト・ヴィレッジのバーで会ったこと、憶えてない?」
「? いつのこと?」
「二週間くらい前。君はかなり酔ってて、セクシーなブルネットの女性と一緒だった」

ああ、と漸く腑に落ちた。レイチェル、いや、レベッカと会った夜のことか。

「あー・・・・残念ながら何ひとつ憶えてなくてね。とんだ失態を犯してなかったかな」
「さあ。直ぐに店を出たから・・・So , あの後ブルネットの美女とは?上手く行った?」
「ああ、それについては訊かないでくれ。飲みすぎ、酩酊、記憶喪失・・・君にも解るだろ?」

ああ、なるほど、と身に憶えのある顔でミシェルが頷きながら笑っているとラムカがキッチンに戻って来て、怪訝な顔で彼らふたりを交互に見ていた。

「楽しそうね」
「ラムカ、ハニー、美味しいマサラ・チャイをありがとう」
「Umm ・・・」

ミシェルがラムカをぎゅうっとハグし、まるで恋人にそうするように頬や髪に甘いキスをして出て行く。
別に特別なことでもなんでもなく、彼らにとっては日常のスキンシップだが、どうやらショーンの目には
奇異なものに映ったらしい。

「・・・」
「Wha ? (何よ)」
「・・・Nothing (別に)」

その日2度目の、「何よ」「別に」の応酬。
含みを残したような顔で彼が首を傾げるのが気に入らないけれど、また言い争いに発展するのは嫌だったので、
何も言わずに彼女はチャイの後片付けを始めた。

「・・・マジで美味かった」

予想外の彼の言葉に一瞬言葉が出て来ずに、鍋を洗う彼女の手が止まる。

「・・・そう、ありがとう」
「今度・・・」
「?」
「カルダモンを買っておくよ」

だからまた飲ませて欲しい――彼の言葉にそういうメッセージを感じる。
気に入ってくれたんだ。何だかくすぐったいような気恥ずかしいような妙な気分がしたけど、嬉しかった。

「じゃあ粉じゃなくてホールのものを買ってね」

照れ隠しのようにそう軽く笑う彼女に「Ok , miss Sherry」と彼もつられて軽く笑う。


横に立つ彼の気配が、何となく、以前とは違うように感じられるのは気のせいだろうか。
彼の醸し出すものが以前と違うのか、それとも、そう感じる彼女自身が変わったのか、それとも、
互いに何かが変わったのか。
大した内容ではないけれど、彼とこんなふうに会話を続けたのは久し振りな気がする。
それを素直に嬉しいと感じている自分に、彼女は内心穏やかではなかったけれど、少なくとも言い争いをしているよりはずっと気が軽かった。


そろそろレイを連れてこなきゃ――そう言って彼女がキッチンを出て行く。
その後ろ姿を見送る彼の顔には静かな笑みが浮かんでいた。
ミシェルとの会話を彼女に聞かれなくて良かった、と思う自分に慌てたのは何故だろう。
そう言えば、さっきベティが「彼女からいつもあなたのことを聞いている」と言いかけていた。
彼女は一体、何を話していたんだろう。
考えるまでもないか。どうせろくなことじゃないんだろ? 
少しばかり気に掛かったが、直ぐに彼はふん、と鼻を鳴らすように軽く笑って仕事に戻った。



* → ● 用語説明ページ



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チャプター2終了しました

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ご訪問くださる皆さま、いつもありがとうございます。
今まで物語だけしか更新していませんでしたが、執筆の裏話とか雑記とか日記っぽいものも今後はUpして行こうかな、と思います。
物語だけではとっつきにくいですよね(笑)
倉庫扱いじゃ、いらしてくださる方もつまんないしね。


まずは、この「Magnet」という物語のこと、それをお話してみようかな、と思います。

実はワタクシ、とある漫画の二次小説サイトを別に運営しています。
と言っても、書く話はオリキャラが中心で、二次サイトです、と言える場所では決してないのですが。
そこでオリキャラが主役の長編を二年前に完結させました。
古代オリエント世界が舞台の、くっさい大河風メロドラマなんですけどw、ある日ふっと、
「彼らが現代に存在してて、そこで出会ったらどんな感じなんだろう」
と思いついたのがこの「Magnet」を書くきっかけでした。
なので、その古代もののオリジナルストーリーをご存知の方には最初、『輪廻もの?』と訊かれました。
うーん、輪廻もの、と言えばそうなのかもしれないけど、厳密に言うとそうじゃないように思います。
(思います、ってなんだよ、明確に決めておきなよ、って感じですがw)

つまり、自分の物語の二次、みたいなもんでしょうかね。
二次の世界で展開させた三次の二次、とも言えるか(あー、ややこし)

オリジナルの方が書いていて楽しいな、と言うのが本音です。
もともと二次でもオリキャラ書く方が楽しくて、そっちばっかり更新してたし。

キャラの設定を細かに決めていく作業が好きで、そういうのをあれこれ思い描く時間が至福のひと時。
ヒロインの「ラムカ」という名前はオリジナルで、彼女の弟の「ラーイシュリヤ」の名前も同じくオリジナル。
色々と言葉をアナグラムするのが好きなので、とある意味の言葉たちを色々と組み合わせてつけた名前なんですが、そういうのを考えるのもまた至福の時。物語の中にも名前の意味がエピソードとして出てくる予定です。
これだからオリジナルはやめられない、って感じですかね。



ところで、私の書く文章ってくどくて硬いですよね。今みたいなのはくだけ過ぎなんですが。
これは硬さに関してはわざとそうしてる部分もあるのですが、くどい、という部分に関してはわざとじゃなくて、どーしてもそうなっちゃうみたい。
そー言えば、自分の文章をコピペして、どのプロ作家の文章とマッチングするか、みたいなサイトさんがあって一度試したことがあんですよ。
先にお話したメロドラマwで試してみた結果、何回やってもマッチングのパーセントが高いのは「有島武郎」だったり。
えっ?ワタシ、白樺派ですか? (・・・っつか、そんな暗いですか?(笑)
どーりで直帰率、高いわけだ(笑)ああいや、何でもありませんw
有島は余り読んでないんだけどなー、おっかしーなあー。
P・オースターとかT・カポーティーを目差しているはずであったのに。(スミマセン・・・嘘です)


ところでですね、自分で言うのも変ですが、「Magnet」はチャプター2から(第9話から)の方が面白くなってくると思いますw いや、物語が面白い、という訳じゃなくて比較の問題ですが。
チャプター1はどうしたって各キャラクターの紹介みたいなものだし、いきなり文章硬いし。
そりゃ直帰率、高いわ(しつこい)


折角お暇を割いていらしてくださったのに、第1話からお帰ししてしまってるようじゃ本末転倒すぎますよね。
うーん、もっと頑張ろう、自分。
(でも序盤で帰られてるということは今から頑張っても遅い、ということ・・・? げーん)


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Category: Notes

Magnet 19.「 Raindrops keep fallin' on their heads - 雨にぬれても (明日に向って行け) - 」

Sequel Ⅱ  後日談 : その2

Magnet 19.
「 Raindrops keep fallin' on their heads - 雨にぬれても (明日に向って行け) - 」

m-file-magnet19.jpg


ミッドタウン・ノース 『 Bruno Bianchi NY 』(ブルーノ・ビアンキ・ニューヨーク)  3:40 p.m. 

昨日まで続いた、春の訪れを思わせる陽気が嘘のように、彼のカシミアのセーターと同じ色をした空から、
窓ガラスに小さなドットがひとつ、ふたつ。
やがてそれらは融合して大きなドットになり、そのうち歪んだストライプへと姿を変えて流れ落ちてゆく。
形良いふくよかな唇から幾度となく吐き出される溜め息。その日何度目かのそれはまるで、窓の外の突然の雨に
向けられた憂いのように、仲間達には聞こえただろう。
彼のあめ色の瞳には雨粒のひとつすら、映っていないというのに。


" また会える・・・? "
" ・・・Maybe "

つれない答えが切なくて、男の首に思わず伸ばした指。
一晩中彼の身体を這い続け、恍惚とさせた唇に、別れの時間(とき)を自分から重ねた。
" ・・・ありがとう・・・ミゲル "
男は何も言わず、返事の代わりのように彼の唇をただ優しく貪り返した。湿った音の連続に混ざる、甘い息遣い。
彼の髪を乱し、頬を滑る、指先。男の愛撫に敏感になってしまった身体が悲鳴を上げ始める。
"やめて。仕事に行けなくなる "
そうすれば?とでも言うように片方の眉を上げる男を残し、石碑のように重いドアを開けた。

それからどうやってここまで来たのか憶えていない。
彼としたことが、2日続けて同じ服で出勤するなんて、普段なら絶対に有り得ないことだった。
と言うことは、家に帰らずにそのままキャブでここまで来た、ということだろう。
身体のあちこちが痛かったけれど、そんなのはどうってことない。
さっきからずっとズキズキと疼いている、胸の痛みに比べたら。
唇を噛むと、そこに最後、男がくれた甘い口付けを思い出して、また胸が疼いた。
ああ、と額に手をあて、瞳を閉じる。何てこった。これじゃ仕事にならないよ。

「――ミシェル、予約入ったわよ。ミセス・クリフォード。30分後よ」



「――もう、突然降り出してくるんだもの」

そこからそこなのにキャブを拾っちゃったわ、と笑う彼女につられて彼も笑みを返す。
相変わらず綺麗に手入れの行き届いた肌は、彼にクリエイティブな欲求を甦らせてくれる。
そろそろパーク・アヴェニューをピンク一色に塗り替える筈の桜のように、彼女を春の女神に仕立て上げてしまいたい。
それなのに今日の彼女ときたら、無下にも彼の欲望をあっさりと封じ込めてしまった。

「元気ないわね」
「そう見える?」

そう。キャサリンの予約とはヘア・メイクでも何でもなく、ミシェルを拘束することだった。
彼女たちは今、向かいのカフェで椅子に座り、コーヒーを飲んでいる。

「Yeah ! 酷い顔してる。でも、翳のあるあなたもセクシーで素敵よ」
「あー・・・ありがとう、と言いたいところだけど・・・」
「―― Lovesick (恋患い)」
「?」
「顔にそう書いてある」
「!?」

窓ガラスで顔を確認するミシェルをふふっとからかうように笑い、彼女はマグカップを口に運んだ。

「キャス」

もう、からかうのはやめてよ、そう言いたげに苦笑したミシェルの眉がほんの少し、切なげに歪むのを彼女は見落とさなかった。

「・・・言えない恋でもしてるみたい。人妻と恋に落ちた男、みたいな顔よ」
「Me and Mrs.・・・Clifford ? *」

ビリー・ポール*の古いソウル・ミュージックを引き合いに出し、ミシェルが悪戯っぽく眉をくい、と上げる。
ミシェルの頬にいつもの "えくぼ " が戻った瞬間だ。

「ふふっ、あなたみたいな人とならそれも悪くないかな」
「Really ? それは光栄だよ」
「Tell me ! どんな人なの?」
「あー・・・・」

顎の下で指を組み、彼を見上げる青い瞳に自分の姿が映し出されるのをぼんやりと見ながら、
彼は暫し考えを廻らせた。
彼女とは知り合って間もないし、本来彼はプライバシーを簡単に他人に打ち明けるタイプではない。
けれど、彼女には何でも話せそうな気がしていた。初対面の時から不思議と彼女には居心地の良さを感じるのだ。

「・・・ねえ、キャス。運命の出会いってあると思う?」
「ええ、思うわ。ただの偶然と言う人も多いけど、その偶然こそが運命だって思わない?」
「・・・僕ね、恋をする度に毎回そう思ってきたんだ。これは運命の出会いに違いないって。だけど・・・」
「・・・?」
「・・・どうやら今までのそれは・・・違ったみたい・・・」
「! 出会ったのね?本当の運命の相手と」
「・・・判らない・・・何しろこんな感覚は初めてで・・・・まだ上手く言葉に出来そうにもないよ」

また彼の唇から深い溜め息が吐き出される。伝染したように、彼女の唇からも同じように吐き出される溜め息。

「残念だわ」
「どうして?」
「あなたに紹介したい男性がいたんだけど、そんな相手に巡り逢ってしまったんじゃ彼の出番はなさそう」
「はは・・・まさかあの彼じゃないよね?」
「Who ?」

ミシェルが指をパチンパチンと鳴らしながらMaxwellの曲を歌い、リズミカルに身体を揺らす。
彼は、クリフォード家の別荘でのパーティーで、踊りながら彼に身体を摺り寄せて来た、あのオカマのバーニーの
ことを言っているのだった。

「あははは!」

仰け反って大笑いする彼女に、どう?というふうに笑って彼が両手を広げる。

「OH , もうこんな時間! そろそろ話の本題に入るわ」
「本題?」
「今日はあなたに依頼したいことがあって来たの―――」







ブルックリン  10:25 a.m. 

プルルルル―――

「Oh ! 」

母の写真から手を離した瞬間またしても電話が鳴り、驚いた彼女の指がビクッと宙を舞った。
またダディかも。
彼女は再びソファーに腰掛けてぞんざいに受話器を取り上げた。


「Hello ? 」
" おっはよー、ミス・テイラー "
「Oh , ベティ!おはよう。今日休み?」
" Yeah !  ねえ、あんた今日も暇よね? "
「失礼ね。今日も、って何よ」
" わはは "
「で?」
" ショッピング行こうよ "
「Yeah , いいわよ」
" ミシェルがとびきりの男を紹介してくれるって言うからさ、とびきりの服をゲットしなきゃ! "
「何それ!自分だけずるい!」
" あんたは間に合ってるでしょ "
「何が」
" ステイシーから電話来たよ。彼に送ってもらったんだって?進展したじゃん! "
「What !? もう!みんなしてお喋りなんだから!」
" みんな? "
「その話はいいから! ・・・で?何時にどこで?」



ベティとの電話を切り、早速彼女はシャワーを浴びた。
バスタオルを2枚、それぞれ頭と身体に巻き付けたら、気分はひと昔前のエリカ・バドゥ*。
" On & On " を口ずさみながら、そんなしどけない姿で着ていく服を選び始めた。
歩き回るから疲れないようにムートン・ブーツを履いて行く?じゃあボトムはジーンズ?
それとも、いつもジーンズだからやめとく?

プルルルル―――

そんな調子であれこれ思い悩んでいると、またしても電話が鳴った。
God ! 今日は一体どうしちゃったの? 朝から電話ばっかり!
彼女は手にしていた服を持ったまま、再び受話器を取って耳に当てた。

「Hello ? 」
" ・・・Lamka? "
「Yeah ? Who is this ? 」
" ・・・It's me ・・・Neville・・・"

――― !?

思いがけない人物の声。彼女の身体と心は石のように固まり、それが解けるのに暫し時間を要した。

" Hi "
「・・・・あー・・・Hi , ずいぶん久しぶりね」
" 元気にしてた? "
「Yeah , 元気よ」
" 何年ぶりかな "
「あー・・・3年とか、そのあたり?」
" 突然電話なんかして・・・迷惑だったかな "
「No , 迷惑だなんて」
" 彼と一緒かもしれないし、迷ったんだけど・・・ "
「彼?」
" ・・・実は昨日、君を見かけたんだ "
「Really !? どこで?」
" 『ヴィネガー・ストアー』で "
「Oh ! あー・・・」
" 色々と想像を掻き立てられたよ "

ショーンとレイのことを言っているのだろうか。まさか家族に見えたわけじゃないだろうけど、もしかしたら、
彼ら二人が父子に見えたのかも。

「・・・それで電話を?」
" ・・・今夜、会えないかな "
「!」
" 久しぶりに食事でもどうだい? "
「・・・・Oh・・・・」
" 古い友人として・・・"
「・・・・あー・・・ごめんなさい・・・今夜は約束してるの」
" ・・・昨日の彼? "
「・・・Yes・・・」



ソーホー  2:40 p.m. 

「――Wow ! これなんかどう?」
「・・・見え見え」
「じゃあこれは?」
「もっと見え見え」

ベティときたら、「今直ぐにあなたとベッドに行きたいわ」と主張しているようなドレスばかり手に取るので、
ラムカの首は横に振られるばかりだ。

「うーん、やっぱりあからさま過ぎるか」

その後、違う店に行くために通りへ出ると、ベティが思い出したように「あっちにすっごいセクシーな
ランジェリー・ショップがあったよね!」と彼女の手を引いて歩き出した。
ヴィヴィアン・ウエストウッドの息子*がデザインしているというブランドだ。
かなりセクシーなイメージだけれど、ランジェリー自体は決して下品なものではなく、クラシカルな気品さえ漂わせるものが大半だった(中には " プレイ用 " のどぎついものもあったけれど)。
ただし、やたらと扇情的なアプローチを見せていて、店内に流れるモニターに映し出されるコマーシャル映像を観て、
ラムカは目を丸くしてばかりだ。

「流石はヴィヴィアンの息子だね。アヴァンギャルド!」

ノリノリでセクシーな下着を身体に当ててはしゃぐベティをよそに、ラムカはさっきからずっと、何となくぼんやりとしてばかりで気のない様子だ。
その上、ベティが手に取るもの全てに否定的で、何だか楽しくなさそうにも見える。

「・・・彼と何かあった?」
「彼?」
「送ってもらったんでしょ?」
「Oh , あー・・・」
「いい男だったってステイシーが言ってたよ・・・Wow ! これ可愛い!How much――」
「――ネヴィルから電話がきたの」
「!」
「今夜会えないかって・・・」
「! 駄目だよ、ラムカ!解ってるよね?」
「I know ! もちろん断ったわよ」
「Oh my gosh ! 150ドルもするソング*を握り締めてる時に脅かさないでくれる?危うくレジに持ってくとこだよ」
「買えば?」
「Nah ! 出よう、それどころじゃなくなったよ」


やっと見つけたカフェは満席で、20分も待って漸く席に着くことが出来た。
五番街もそうだけど、ここソーホーも、気の利いたカフェはブティックが集中している場所から離れた場所にしかない。
10分以上も歩いた挙句、20分も待って漸く口に出来たカプチーノだった。
ラムカから昨日の一連の出来事や今朝のネヴィルからの電話の件を聞きながら、ベティは大好きなはずのカプチーノを、半分も飲まないうちに飲む気が失せてしまっていた。
お世辞にも余り美味しいとは思えなかった。エスプレッソの部分は薄くて香りも弱いし、ミルクの温度も高すぎて
泡のきめが粗い。いかに普段レヴェルの高いそれを口にしているかを改めて感じずにはいられなかった。
あーあ・・・ポールのカプチーノが恋しい。やっぱり彼のがいちばんだわ。
いつものようにそんなことを思いついた途端、ふっと昨日の夕方の、ポールの表情を思い出してしまった。
ドキッとした時にはもう、彼は視線を外し、ヴェスパを走らせ始めていた。
あれは何だったんだろう。ポールは一体どうして・・・あんな目であたしを・・・
今度はベティがぼんやりとする番だった。

「――聞いてる?刑事さん」
「は?」
「まだ尋問に答えてる途中なんですけど。それとも、もう釈放してくれる?」
「あー、ごめん。続けてくれたまえ、ミス・テイラー」
「もういい」
「・・・しかし気になるなあ、ミシェル」
「はあ?」
「あ、言わなかったっけ?彼、昨日帰って来なかったんだよ」
「あんた、話飛びすぎ」
「そうかな」
「一体どうしたの?」
「だってカプチーノ、いまいちなんだもん」

ネヴィルの誘いを断った時、ショーンとの約束がある、と嘘をついたことをラムカはベティに言えなかった。
一方ベティも、昨日のポールの件をラムカに言わなかった。
代わりに話したことは、一昨日の夜、ミシェルにハリーとのことをぶちまけて慰めてもらったことや、彼が紹介してくれると言っていたラッセルという友人のこと。
ふたりの話題はいつの間にかミシェルのことに移り、気付けば外は雨が降り出していた。
残念なカプチーノのせいではないのだろうけど、何だかショッピングする気まで削がれてしまった。
とは言え、ラムカを今夜ひとりにしておくのは危険な気がしたので、今夜一緒にミシェルをとっちめよう、と提案して、
彼女をチェルシーのミシェルの家まで付き合わせることにした。





アッパー・イースト  3:25 p.m. 

その日の昼、久しぶりに息子のために料理をした。料理、と言っても、冷蔵庫にあった残りもののカポナータ*に
チーズを載せて焼いた、ピザ風のオープン・サンドウィッチとフルーツだけだが。
更に厳密に言うならば、そのカポナータはショーンが作ったものだし、フルーツも切って皿に並べただけだ。
それでもレイはとても喜んで、口の周りをトマトソースで汚しながら、嬉しそうにぱくぱくと食べていた。
それから一緒にジムに行き、軽く運動をして、戻ってきてから着替えをさせた後、今度は一緒にテレビのクイズ番組を観た。
そのうちにレイがうとうととし始めたので、彼の部屋のベッドまで運んだ。
そして現在、彼は久しぶりに我が家で「独りきり」の時間を過ごしているところだ。
コンピュータを立ち上げようかとも思ったが、なかなか出来ることではないから、久しぶりにソファーに寝転がって
本を読むことにした。
本と言っても文学ではなく、結局は経済学者の著書になってしまうのだったが。
本に集中し始めた頃、テーブルに乗せたままの携帯電話が鳴った。キャサリンからの電話かもしれない。
起き上がって携帯電話を取り上げ、ディスプレイに点滅する名前を見た彼は硬直した。
出るべきじゃない。そう言い聞かせ、テーブルの上に携帯電話を戻す。直ぐにもう一度、着信音が鳴り響いた。
耳障りでヒステリックな音だ。逡巡した彼は、意を決して電話を耳に当てた。

「・・・Yeah・・・」
" ・・・You missed me , hah ? "
「・・・No」

からかうように笑う声が、彼を苛つかせた。

" さっき、あなたに脱がせてもらうための新しいソングを買ったの "
「・・・」
" その後、誰に会ったと思う? "
「!」
" 初めまして、ですって。彼女、何も憶えてないのね。がっかりよ "
「・・・君とは終わりだ。そう言ったはずだが」
" んー、留守電は聞かない性質なの "
「だから今も言った」
" 直接、あなたの唇から聞きたいわ "
「・・・No , 本当にこれで終わりだ。二度とかけてこないでくれ」
" 後悔するわよ "
「とっくにしてるさ」

そう言い放って電話を切り、それをテーブルの上に乱暴に置いた。

窓の外の景色と比例するように、彼の心にも灰色の雲が広がって行く。
やがてぽつぽつと降り出した雨にキャサリンを思った。
彼女は今、どこで過ごしているだろう。傘を持たずに出かけたはずだ。
ふとレイの様子が気になり、彼は子供部屋へと向った。
レイはぐっすりと眠っていた。一度ぐっすりと寝たら、最低でも3時間は起きない子だったことを思い出し、
彼は苦笑した。

「*+#+:*・・・・」
「?」

聞いたこともない言葉の寝言だ。
ファンタジーの国の王子か勇者にでもになって、ライオンや豹を従えて冒険でもしているのだろう。
どこか懐かしさを憶える言葉だったが、彼は気に留めるでもなく、レイの上掛けを直し、子供部屋を後にした。







ミッドタウン・ノース  4:30 p.m. 

美しいふたりが楽しそうに笑い合う姿に、幾度となく目をやった。
ミシェルがゲイだと知らない人間には恋人同士に見えているかもしれない。それくらい絵になるふたりだ。
また後ろの方からくすくす、と笑い声が聞こえた。どうせまたジェシカとフレディだろう。
ミシェルとあのブロンドの女性に嫉妬してる、とでも思ってるに違いない。
知ったことか。勝手にそう思っていればいいさ。彼は声に振り返ることもせず、仕事に没頭することを続けた。

今日もジェニーは休みだった。正直、あんなことになってしまった彼女と仕事場で顔を会わせるのは気まずかったから、今日彼女が休みだと思い出した時には心底ホッとした。
遅かれ早かれ、明日になればその時はやってくるわけで、今更逃げ出す訳にもいかないことは解っているのだけど。

その後、紙ナプキンの補充を取りに奥の倉庫へと行った彼は、隣の事務所から大きな音が聞こえたので慌ててそこの扉を開いた。

「――!」
「あいたたた・・・」
「マダム・デュボア!」

彼は慌ててマダム・デュボアに駆け寄った。どうやら脚立から落ちてしまったらしい。

「お怪我はないですか?マダム?」
「ああ、ありがとう、ポール。嫌だよ、あたしったら。うっかり脚を踏み外しちゃったらしいよ」
「本当にどこも何ともない?足首は?捻ってないですか?」
「ああ、大丈夫。お尻をしこたまぶつけたようだけどね。あいたたた・・・」

彼はマダム・デュボアの手を取ってそっと立ち上がらせ、ゆっくりと椅子に座らせた。

「本当に大丈夫ですね?」
「大丈夫だよ。そうだ、ポール、悪いけどそこの落ちたファイルを棚の2段目に戻して貰えるかしらね。
・・・ああ、ありがとう」
「お手伝いが必要な時はいつでも呼んで下さい、マダム」
「ありがとう」
「ああ、そうだ。新しいベーグル・サンドが今日は一番人気で、昼過ぎにはもう売り切れちゃいましたよ、マダム」
「おや、そうかい。それは良かった」


ここのところ、急に足腰が弱くなり始めたマダム・デュボアが心配で仕方がない。
本人は太りすぎだよ、と笑うけれど、決してそんなことはない。
むしろ食が細くなり、以前よりかなり痩せてしまったのに。
彼女には身寄りがない。夫を早くに亡くし、子供も居ない、と聞いている。
もし病気になってしまったら誰が彼女の面倒を看るのだろう。
ふいにミセス・バレットのことが頭に浮かんだ。彼女は今朝も徘徊していたらしい。アパートメントの住人たちが
入り口でその話をしていた。
彼女とのこれまでのやり取りを思い返し、何となく悲しい予感に包まれてしまった。
彼らが「施設」という言葉を口にしていたからだろうか。
いずれにせよ、自分に出来ることは何もない。ミセス・バレットにとって何が最善なのかは判らない。
ただそれを願うことしか出来ない。
ジョンの振りも必要なくなる日が、いつかきっとやって来る。
僕はこんなにも無力な人間だけれど、少しは彼女の心の支えになれたのかな。
いや、まだまだその日はうんと先じゃないか。
彼はそう自分に言い聞かせ、気を取り直して、店への入り口の扉を開けた。

店に戻ると、ミシェルの目の前にいたブロンドの女性は姿を消していて、独り残された彼が頬杖をつき、ぼうっと
外を眺めていた。
彫刻のように美しい彼を眺めるのは良いものだが、きっとまたあらぬ誤解を招いてしまうのは必至だろう。
彼は直ぐにミシェルから視線を外し、仕事に戻った。
ふっといつもの癖で、向かいのサロンの窓へと目をやってしまった。今日そこに赤毛の彼女はいない。
昨日、心の中で、彼女にさよならを告げた。
まだ暫くはこうやって無意識に、あの窓に目を向けてしまうのかもしれない。
そのうちいつか、そんな日もなくなる。ベティを忘れられる日がきっとやって来る。
彼は自分にそう言い聞かせ、サロンの窓から視線を外した。
その瞬間の瞳の色を、ミシェルに捉えられていたことを知らずに。






MPD (ミート・パッキング・ディストリクト)  9:15 a.m. 

強烈に喉が渇いて目を覚ました。ゆっくりベッドに起き上がると、そこは知らない場所だった。
昨夜のことは殆ど何も憶えていない。
近くのバーで飲んでいて、そこで昔一度だけ寝た女と会い、それから一緒に店を出たまでは憶えている。
とするとここは、あの女の家か。名前さえもはっきりと思い出せない。
確か・・・レイチェル、とかそんな名前じゃなかったか。
最悪の頭を抱えて起き上がり、彼女の冷蔵庫を勝手に開けると、ミネラル・ウォーターが入っていなかった。
オレンジ・ジュースを飲む気にはなれず、彼は水道水を喉に流し込んだ。

テーブルには彼女からの手紙が置かれている。イネスの時みたいに、どうせろくなことは書かれていないだろう。

" おはよう、酔っ払いさん。キスしか出来なかったなんて最低!今度会ったら押し倒してやるから覚悟して!レベッカ "

どうやら彼女はレイチェルではなかったようだが、また途中で寝てしまったのか。どうりで服を着たままだ。
イネスの時のように途中で力尽きてしまったよりはマシか。
いや、女をふたりも立て続けにがっかりさせてしまったなど、どちらにしても不名誉なことに違いはない。


空腹で目が廻りそうだったので、帰る途中で見つけたダイナーに飛び込んだ。昔、時々通った店だ。
カウンターに座ると、でっぷりとした白髪のウェイトレスが「おはよう、ハンサムさん」と言いながら薄いコーヒーを入れてくれる。
コーヒーも料理も、決してお世辞にもそう美味しいとは言えないが、この好ましい時代遅れさを、彼は殆ど愛していた。
この街の開発が幾ら進んだとしても、こういう場所は決して失くしてはならない、と心から思う。

「ショーン?」

ふいに肩を叩かれて振り返る。懐かしい男の顔がそこにあった。

「ニック!」
「久しぶりだな」

握手やハグの 『 男同士の挨拶 』 をした後で、ニックという男が隣の席へ腰を下ろした。

「So , 今何してる?まだあの店に?」
「いや、今は 『 Amilcare (アミルカーレ) 』 に居るよ」
「Really ? 」
「Yeah , やっぱりオーソドックスな南イタリア料理が作りたくてさ。自分のルーツだからね。
訳の解らんオブジェみたいな料理はもううんざりだ」
「はは・・・確かに」
「お前は? Oh , そう言えば、でかい仕事をするはずだったろ?寸前で駄目になった、って・・・」
「Yeah , 不景気とやらの煽りでね。スポンサーが怖気付いちまって、あえなくおじゃんさ」
「そうか・・・それは残念だったな。それで今は何を?」
「今か?そうだな・・・強いて言えば・・・『 宮廷料理人 』、ってとこかな」
「何だ、それ」
「アッパー・イーストのパレス(宮殿)で 『 王と女王と王子の晩餐 』 のために日々、命を削ってるってことさ」
「Really ? 」
「Yeah , 今日から俺を 『 Vatel (ヴァテール) *』 とでも呼んでくれ」
「Ok , ヴァテール。まあお前ならまたそのうち、でかいチャンスを掴むさ。悲観するのはまだ早すぎるだろ」
「・・・Thanks・・・」
「・・・ショーン・・・その・・・」
「?」

軽い話をしたあとで、ニックが急に何か言いにくそうな顔をして俯いた。

「・・・いつかお前に謝りたいと思ってたんだ」
「謝る?何を?」
「・・・その・・・」
「? 何だよ、言ってくれよ」
「・・・お前に " あのこと " を言ったこと・・・ずっと後悔してるんだ」
「・・・あのこと?」
「・・・彼女のことさ」
「!」
「俺が・・・見たものを心に秘めたままにしておけば・・・」
「Hey , Nick ! お前が気に病むことじゃない。謝るだなんてよしてくれ。 それに・・・」
「・・・?」
「・・・もうずっと昔に終わったことだ。俺はもう忘れたい。だからお前もきっぱり忘れてくれないか」
「・・・Yeah・・・解ったよ・・・」
「俺のほうこそすまなかった。お前にそんな思いをさせてたなんて」
「いや・・・いいんだ」



今度店に顔を出すよ――そう言って彼はニックに別れを告げた。
雲が時折太陽を覆い隠し、顔に当たる風に少し湿り気を感じる。この後、雨が降り出すかもしれない。


" お願い、話を聞いて "
" いいから出て行け! "

――あの日、土砂降りになるとも知らずに「彼女」を追い出した。
行く宛てもなく、街を彷徨った後、家の階段の下でずぶ濡れになった「彼女」を見つけ、そして、抱いた。
確かあれが「彼女」と交わした最後だった。
昨日の夢、ニックとの再会、雨の気配。
忘れていたはずの日々を思い出させる偶然の重なりに、彼の足取りが急激に重さを増して行く。


・・・俺は一体、何をしているんだろう。
見上げた空には不気味な色をした雲が居て、ゆっくりと風に乗って流れていた。
あの雲のように、風に流されるまま生き、やがては散れ逝く運命なのか。
綺麗さっぱり散ることが出来るのなら、それも決して悪くない。
時折湧いては歩みを止めさせる虚無感を、彼はいつものように酒で誤魔化して、また自分の中に封じ込めることに
なるのだろう。
やがてアパートメントの下に停めたバイクが見えてきて、少しずつ彼の視界の中の割合を増して行く。

「よう、相棒」

もちろん、相棒の返事はない。 " 二度と乗らないわよ!" そう憎まれ口を叩いた、彼女の残像が見えた彼の唇の端が持ち上がるのを、ただ静かに見届けただけだ。
彼の中に生まれていた "何か" も相棒には見えていただろうか。そしていつか、彼がそれに気付く日は来るだろうか。
もちろんそれも相棒には解らない。
今はただ、くすんでいく街の空気をその磨かれたボディに映し、西の街に静かに佇んでいた。




* → ● 用語説明ページ






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日曜日  
ブルックリン  9:45 a.m. 

みぃうー。お腹空いたよー。みぃうー。ねえってばー。

「・・・ん・・・」

みぃうー。ねえ、起きて。
胸元の重苦しさに目を開くと、デーヴィーが彼女の胸の上で毛布越しに「もみもみ」をしている。

「Hi、Devi・・・」

まるで母親みたいに容赦なく起こしにかかるデーヴィーに、かすれた声をかける。ゆっくり起き上がると、
ベッドだと思っていたそこはソファーだった。
目の前のテーブルには、チップスが入っていたボウル、ハーフ・サイズ・ボトルのワインの空き瓶とグラス、
食べ残して「かぴかぴ」に乾いたチーズと、茶色くしなびてしまった林檎のスライス、ステイシーから借りたDVDの
パッケージが幾つか。
そして、テーブルの先には点けっぱなしのTV。 God ! 私ったら、途中で寝ちゃったんだ!

それから彼女はバスルームに行って用を足し、キッチンで待ち構えるデーヴィーに朝食を与え、コーヒーをセットして
椅子に腰掛け、ふああ、と何度目かの欠伸をした。
確か最後に時計を見た時には夜中の2時を過ぎていた。えーと、映画はどこまで観たんだっけ。
そもそも何を観ていたんだっけ。1本目は確か、昔のジョニー・デップの映画を観たんだったけど。
ジョニー・デップが朴訥とした普通の青年を演じているのも新鮮だったけれど、少年時代のレオナルド・ディカプリオの演技がとても素晴らしかった。ああ、それにジュリエット・ルイス!彼女の何もかも、全てが可愛かった!
流石はステイシーのチョイス・・・と言いたいところだけど・・・

ステイシーはラムカの家の直ぐ近所で、小さなアクセサリー・ショップを営んでいる友人だった。
商品は殆ど全てが彼女の手作りで、アクセサリー以外にも少し風変わりな帽子やバッグなども置いている、
個性的だけれど、いかにもブルックリンらしさの漂う、とてもセンスの良い小さな店だ。

そのステイシーから昨日の夕方に電話があった。
"ちょっとラムカ!今の彼、一体誰よ? "
昨日、ショーンにバイクで送って貰ったところを見られていた、というわけだ。
その後、今夜一緒に出かけない?というラムカの誘いに、悪いけど今日はデートなんだ、と言った彼女は、
代わりに幾つかの映画のDVDを貸してくれた。客が全く来ず、暇を持て余している時に時々観ているのだと言う。
ああ・・・土曜の夜に出かけることもしないで、家に篭って独り映画鑑賞なんて! 
そりゃあ、恋人の居ない期間にはよくやることだけど・・・・


ぼうっとした顔でコーヒーを啜り、満腹になってしゃなり、しゃなり、と満足げにキッチンを出て行こうとするデーヴィーの姿を見つめ、彼女はぼんやりと昨日のことを思い返した。
楽しかったような・・・わけの解らない一日だったような。感激したり怒ったり、美味しかったり怖かったり。
怖かった、というのは最後のバイクのことだけど、とにかく、何だか感情の起伏の激しい一日だった。

"二度と乗らないわよ!" ――私ったら、彼に対して最後までそんな言葉しか出てこなかったなんて。
"送ってくれてありがとう " って言わなくちゃ。彼の背中にしがみついている間中、そう思っていたのに。
それなのに。バイクから降りた時、腰が抜けたみたいに「ふにゃ」っとなってしまって、それがとっても恥ずかしかった。
だからなのかどうか、気付いた時にはそんな憎まれ口を叩いて、さっさとアパートメントのほうへ向ってしまっていた。
"今日は本当に・・・色々とごめん " ―― 再び謝る彼の声を背中で聞き、彼女はようやく素直に "送ってくれてありがとう " と口にすることが出来たのだ。
"私こそごめんなさい " という言葉と共に。
その後、"じゃあ、また " そう言って彼が去って行くのを見送った、あの時の気持ち。
それを思い出してしまい、彼女は否定するようにゆっくりと首を振り、マグカップのコーヒーをごくん、と飲み込んだ。
まるでその思いを飲み込むように。
あっさりと帰ってしまった彼に、何故だか拍子抜けした。がっかり、という言葉でもいいかもしれない。
もっと言うと、小さくなっていく彼の姿に、寂しさみたいなものを感じていた。
もう帰っちゃうんだ・・・そう心の中でこっそりと思ったことを、彼女は頑としてまだ、認めてはいなかったけれど。
馬鹿みたい。「何か」を期待してたのかしら。そうチラリ、と思ったことも彼女は「無かったこと」にした。



プルルルル―――日曜の朝の、まったりとした空気を震わせて鳴り響く、電話の音。
彼女はコーヒーの入ったマグカップを手に立ち上がると、受話器を取ってソファーに腰掛けた。

「Hello ? 」
"Lamka ? "
「Oh ! Daddy ? 」

今はワシントンに暮らしている父親の声だった。

"元気にしているのか? "
「Yeah、元気よ。ダディこそ元気にしてるの?マギーも」
"私たちは変わらず元気だ、ありがとう。それより、たまには電話をしなさい、ラムカ "

ダディこそ、そう言いたかったけれど、実際は余り話をしたくなかったから、曖昧に笑って返事をした。
父親が何を言いたくて電話してきたのか――声を聞いた瞬間、何となく嫌な予感がしたからだった。


"アイシュから聞いたが、幼稚園を辞めたそうだな "
「あー・・・Yes, daddy 」

ほら来た! 昨日の夜、早速弟に電話をして、お互い近況報告をしたばかりだった。
一夜明けた途端、早速父親から電話だ。 もう、アイシュのお喋り!

"どうして辞めたりなんかしたんだ?まだほんの3年だというのに。折角―― "
「――ダディ、そのことだけど、今は話したくない」

恋愛関係が原因で解雇された、なんて口が裂けても言えない。父の取り成しであの仕事に就けたようなものだったし、何よりも、英国人である父の硬苦しく気の滅入るようなアクセントで、日曜の朝っぱらからお説教されるなんて
まっぴらだった。

"子守なんかで食べていけるのか?家賃は払えるのか?住み込みじゃないとアイシュが言っていたが・・・ "
「それは大丈夫。何も心配要らないわ、ダディ」

実際は家賃を払ってしまうと、その残りでは極めて質素に生活するしかなさそうだけれど、彼女は父親に心配を
かけまいと虚勢を張った。
何しろ平日の夕食は、クリフォード家のためにショーンが作る豪華ディナーの "おこぼれ " に与ることが出来る。
時折ナディアがフルーツや残りものをお土産に持たせてくれることもある。
つまり、贅沢は出来ないけれど、決して食い逸れる心配も今のところ、ない。だから決して嘘はついていないはずだ。



父親からの奇襲攻撃を何とかかわし、彼女は再び弟に電話をかけた。クレームを言うためだ。

「よくもダディに喋ったわね」
"だってあの後、偶然ダディからも電話がきたんだ。 それに、どうせいつかは知られることだよ? "

弟のアイシュはもっともらしいことを言って笑った。
確かにそうよね。そうなんだけど。それは解ってるんだけど。

「私の可愛いラーイシュリヤ。よく聞いて頂戴。
これからは私のことを、勝手にあれこれとダディに話さないでくれると嬉しいんだけど」
"ジー・ハーン、マー(はい、ママ) "

姉がいつものように母親の口調をまね、弟が「はい、ママ」と素直に返事を返す。
それは子供の頃からの姉弟間でのお遊びでもあった。
彼は、叱る時にも褒める時にも「私の可愛いラーイシュリヤ」と最初に優しく呼びかけてくれた母の記憶を、
何よりも愛していた。
それはラムカにも毎回向けられていた言葉だった。「私の可愛いラムカ」と。


弟と一緒になって、在りし日の母を思い出すこと。それは彼女を春の陽だまりのような優しい気持ちにさせてくれる。
と同時に、とてつもなく深い悲しみを呼び覚ましてしまうことでもある。
もう10年近くにもなるのに、彼女の心の中の母親のための部屋は少しも、綺麗に片付いたためしがない。
そこはいつでも散らかっていて、絹のように柔らかなものも、薔薇の棘のように尖った痛いものも、何もかもが
一緒くたになって仕舞いこんであるものだから、あるものを取り出そうとする度に、何か違うものが引っ掛かって
「くっ付いて」来る。

"私の可愛いラムカ、いらっしゃい " ――この上もなく優しい笑顔で抱きしめてくれる母が、その笑顔の裏で
ひとりこっそりと涙する姿や、深夜、両親の寝室から聞こえてくる諍いの声。
擦り切れてぼろぼろになっても何度も何度も読み返していた、今は亡きインドの祖父母からの手紙の束。
それを目で追う時の、満ち足りたようでいて寂しそうな母の顔。
全く、何ひとつ片付けられやしない。もっとも、端から片付けるつもりなんてないのかもしれないけれど。



弟との電話を切った後、彼女はチェストの上に飾ってある母親の写真をふたつ、手に取った。
どちらも彼女のお気に入りの写真だ。
そのうちのひとつは、何気ない普段の日の母の姿だった。
サリーを着けてソファーに座り、こちらへと微笑んでいる写真。
そしてもうひとつは、インドの伝統的な盛装に身を包み、いつもより派手な化粧を施した、ゴージャスな母が余所行きの顔で微笑んでいる。インドに里帰りした際に写真屋で撮ったものだ。
インドの映画女優みたい! そう言うと、母は何故だか少し困ったような顔をした。
普段の飾り気のない母のほうが好きだったのに、そう言えば、一度もそれをちゃんと母に言ったことがない気がする。
彼女は母が盛装しているほうの写真をチェストの上に戻し、普通のサリーを身に着けているほうの母へ微笑みを向けた。

「・・・綺麗よ、マー(ママ)・・・」

まるでデーヴィーのみぃうー、という鳴き声みたいな、小さい子供みたいな、頼りない甘えた声。
やがて彼女は、指先に移したキスをそうっと写真の母に捧げ、それを静かに元の場所へと戻した。











ミッドタウン・ノース、五番街  2:30 p.m. 

友人とランチをとった後、彼女は五番街でぶらりとショッピングに興じていた。
レイは夫が見てくれている。ゆっくりしておいで、と送り出してくれた彼の顔は昔の彼のようで、
少し照れくさい気持ちで彼にキスをした。

昨日も休日出勤をしておきながら、早々に戻り、レイの相手をしていた夫。
「パリに行こう」と言っていた彼の言葉を半ば冗談だと思っていたけれど、本気なのかもしれない、と漸く彼女は
思い始めている。
罪滅ぼしのつもりなのね。そう言ってやりたかった気持ちをぐっと堪え、あの夜彼に寄り添った。
たとえそうだとしても、嬉しかったから。
そのせいか、まだまだ先の話なのに、こうして着て行く服を探しに、五番街をぶらぶらしている自分が
可笑しくて堪らない。
ウィンドウには春から初夏にかけての服ばかりで、バカンス向けの服や水着を探すには時期尚早過ぎたから。

それでもやはり、ひとりきりのショッピングは楽しい。
つまらなさそうに付き合う夫も居ないし、トイレットだジュースだ何だと気忙しくさせる息子も居ない。
そして彼女が今立っている場所は、世界でも指折りの、超高級ブランドの集まる場所だ。
東西に走る東57丁目通りと、南北に走る五番街の交差する4つ角にはそれぞれ、ヴァン・クリーフ・アンド・アーペル、ブルガリ、ルイ・ヴィトン、そして五番街の顔とも言えるティファニーが、競い合うように堂々と鎮座している。
いずれは私もあの場所で・・・と彼女を奮い立たせてくれる場所でもある。
彼女はそこから東に向い、イヴ・サンローラン、バーバリー、シャネル、クリスチャン・ディオール、とそれらの店を
順に巡り、次にエミリオ・プッチへ行こうと通りを少し入ったところで、女性の二人組とすれ違った。

「キャス?」

すれ違いざまに掛けられた声に彼女が振り返ると、それは友人のアリーだった。

「Hi ! 」

挨拶のキスを頬に交わし、互いの格好を褒め合い、友人の連れの女性に「始めまして」、と挨拶を交わす。
どこかで会ったことがあるような気もしたが、そのまま彼女らに別れを告げ、キャサリンは再びショッピングを楽しむために歩き始めた。
そしてエミリオ・プッチに辿り着き、ウィンドウのマネキンに視線を移した時、彼女はハッと瞳を見開いた。

「彼女」に・・・似てた・・・?

アリーとその友人を振り返ってみたが、ふたりはもう彼女の前から姿を消していた。
会ったことがあるような気がしたのは、そういうことだったのか。
アリーは連れの女性を、ヤスミン、と紹介していた。
どことなく似ている、と思ったのは、殆ど黒とも言えるダークカラーの髪に、浅黒いブロンズ色の肌をしていたからだろう。
髪は染めたものかもしれないし、肌も焼いたものかもしれない。
そういった容姿の女性なんて、この街には数え切れないほどいる。シェリーもそうだし、友人の中にも数人いる。
それなのに、いまだに「彼女」の姿と重ねてしまうなんて・・・本当にどうかしてる。


立ち止まっていた彼女は小さく首を振ると、気を取り直したように、エミリオ・プッチのウィンドウを再び
その青い瞳に映す。
薄いブロンズ色の肌をしたマネキンが、彼女を静かに出迎えようとしていた。
暫く逡巡した後、彼女は何かを思いついたように、通りで携帯電話を取り出した。


"こちらは『Bruno Bianchi NY』(ブルーノ・ビアンキ・ニューヨーク)、お電話ありがとうございます "
「キャサリン・クリフォードよ。ミスター・ピノトーの予約を―――」


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Magnet 17.「 Night of the fallen angels - 堕天使たちの夜 - 」


Magnet 17. 
「Night of the fallen angels 」 - 堕天使たちの夜 - 

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        ごめんなさい、ショーン。

        出て行ってくれ。

        お願い、話を聞いて。

        いいから出て行け!



「――― ! 」 
びくん、と脚が揺れて目が覚めた。辺りはトンネルの中のように真っ暗だ。
一瞬自分がどこに居るのかも理解出来ず、早朝なのか翌日の夜なのか、時間の感覚もない。
いつの間に眠ってしまったのだろう。ゆっくりとソファーに起き上がり、スタンドの紐を引いて灯りを点すと、
その刺激で額の辺りにずきん、と軽い痛みが走リ抜けた。
暫く額に手を当てたままでそれをやり過ごし、ゆっくりと時計に視線を向ける。
彼の街は丁度、夜の9時を迎えたばかりのようだ。
彼はゆっくりと立ち上がってバスルームに行き、それから冷蔵庫を開けてビールを手に取った。
暫く考えた後でそれを冷蔵庫に戻し、フリーザーから淡いブルーの四角いボトルを取り出すと、
ロックグラスにほんの少量注ぎ入れ、天井を見上げるようにしてそれを一気に喉に流し込んだ。
ふーっと息を吐いてそれが臓腑に沁みる感覚を味わい、再び少量グラスに注ぎ入れて同じように天井を仰ぐ。
椅子に腰掛けることもしないでそれを2、3度繰り返してから、漸くダイニング・チェアーに腰を落とし、
今度は先程よりも多めにそれをグラスに注ぎ入れた。

何で今更、「彼女」の夢なんか―――テーブルの上に両肘をつき、頭を抱え込むようにして髪をかき上げる。
ああ、本当に今日の俺は、何かがどうかしちまってる。
そう思いながら顔を上げると、テーブルに置かれたバイクの鍵が目に留まった。
それを目にした瞬間、数時間前の記憶が蘇る。

バイクを降りた時、彼女は腰を抜かしたようにへたへたと道路に崩れ、二度と乗らないわよ!そう最後まで
憎まれ口を叩いていたっけ。ぎゅうっと何度もしがみ付いてきたくせに。
その時の彼女を思い出すと、知らず知らずのうちに笑みが零れてくる。
だが直ぐにそれを消し去り、彼はああ、とまた頭を抱えて髪をかき上げた。
どうして昼間、あんなにむきになってしまったんだろう。あれじゃまるでガキの喧嘩だ。

"膝の上に寝る相手なんていくらでもいるくせに " ――― ああ言われて、何故不快な気持ちになったんだろう。
いつもなら冗談のひとつでも言って軽くやり過ごすはずなのに、そう出来なかった。
この俺が冗談も返せずにむきになるなんて一体どういうことだ。全く訳が解らない。
何しろ、あんなふうに向ってくる女は初めてだ。声を掛ければ予想外の反応を返してくるし、笑みを向ければ
警戒したような表情を返す。メアリーみたいに適当にあしらうことが出来ない。
鍵を掛けて仕舞い込んだ素の自分を、気付かぬうちに勝手に引き出されているような感じがする。

彼はグラスの中のジンをまたひと口、舐めるように飲み、ふうと息を吐き出した。
空腹で目が廻りそうだったが、何となく食欲もない。
冷蔵庫にはドリンクしか入っていないし、自分のために料理をするなどまっぴらごめんだ。
寝てしまうには早すぎるし、第一、夕方から眠っていたのだから眠れる訳がない。
一瞬、イネスの顔が浮かんだが、彼女とは昨夜抱き合ったばかりだ。自分から彼女に連絡したことはないし、
そもそも、2日続けて彼女とそんなことをする気にはなれなかった。
気付けばフリーザーから出していたジンのボトルが汗をかき始めていた。
つう、と滴が幾つかの筋を描いて流れ落ち、テーブルの上に小さな水溜りを作っている。

ボンベイ・サファイアか―――今じゃその都市は確か 『 ムンバイ 』 と呼ばれているんだっけ。
『 ボンベイ 』 のままでいてくれたらよかったのに、と彼は思う。そちらのほうが好みだし、何より、響きが美しい。
他所の国の都市名についての勝手な言い分を、無責任にもあれこれ思い描くことに暫し時間を費やした。
彼女・シェリーの中に半分流れているという国の都市。 
・・・ああ、またかよ。結局はまた彼女のことに考えが戻るのに彼は苦笑した。

彼はそうやってぼうっと過ごしながらグラスの中のジンをゆっくりと体の中に流し込み、
ほろ酔い気分で再び上着を引っ掛けると、夜の喧騒に逃げ込むためにドアを開けた。








ウエスト・ヴィレッジ  11:45 p.m. 

「彼」を探して数軒の店を巡った。
通りで誰かに尋ねればことは簡単だったが、流石に夜のクリストファー通りの、「あの場所」に立ちたくは無い。
幾らだい?ベイビー。 「売り」はやってない。人を捜してるだけ。 Fuck off ! (失せろ!)紛らわしい奴め。
きっとまたそんなことの繰り返しになるだけだし、勝手に縄張りに立つな、と脅され、ビルの隙間に押し込められるのも御免だった。

羽振りの良さそうなアジア系の男が、さっきからミシェルにちらちらと視線を送ってくる。ねっとりとした嫌な視線だ。
やっぱり誰かと一緒に来るべきだった。そう後悔したが、今夜は「彼」を捜すことが目的だから、やはりひとりで
いるべきなんだろう。
しなやかな長い指で持ち上げたグラスに、ふっくらと形の良い唇を押し当てる。
中の液体を喉に流し込むと、カラン、と氷の澄んだ音が心地良く彼の耳に滑り込んだ。
面倒を避けるために、こうして「男の選ぶ酒」なんかを口にしている自分を、滑稽だと思った。
そんなことをしたところで、まるで無駄だったのに。
今夜だけで一体、何人の男が彼に熱い視線を送ってきたことか。あのアジア系の男みたいに。
自分の見目にうんざりとする瞬間だ。彼は人目を惹き過ぎる。その美しさ故に。

アフリカ系の父親から受け継いだ、野性的で均整のとれたカフェ・オ・レ色のしなやかな身体、無意識にそこから
放たれている濃密なエロス。
フランス人の母親から受け継いだ高貴な美貌、上流階級の出だったというその母親に仕込まれた、エレガントな物腰と確かな審美眼。
そして、彼自身が自分の中で熟成させてきたもの。その材料は、例えば苦悩や痛み、悦び、悲しみ、怒り。
それらのものが複雑に絡み合って作り出された、ミシェルというひとりの魅力的な青年が、本人の望まないうちに
人目を惹いてしまうのはもっともなことだ。そしてそれに男女の区別は無かった。
彼は、男からも女からもねっとりとした視線で視姦され、彼らにひと時のファンタジーを与えてしまう存在だった。
やがてファンタジーだけでは我慢し切れなくなった輩に、そのうち声をかけられる羽目になる。

無論、彼自身がそれを待ち望んでいる時もある。彼らの世界は特殊だ。 映画やテレビで見かけるような、普遍的な「Boy meets girl 」など存在し得ない。極めて動物的で即物的だ。
獲物を定め、視線を絡め、互いの身体に生まれる欲望が一致すれば身体を繋ぎ合わせる。
そこから恋が始まることもあれば、刹那の快楽に身を投じて終わることもある。
彼はいわゆる「あばずれ」ではないから、その場で欲望を満たすようなことはしない。その経験がない訳ではなかったが、後に残されるあの虚しさは彼の趣味ではなかったし、病気やトラブルのリスクも高すぎる。
自棄を起こしていた若い頃にはそれを求めたこともあった。自分を貶めてしまうようなことだ。クリストファー通りの、
「あの場所」を舞台にして。

それを救ってくれたのが「彼」だった。留守がちな母親のせいで孤独だったミシェルに温かい食べ物を与え、
洗練された衣服を着せ、レストランや夜の街でのしきたり、振る舞い、酒、実にさまざまなことを彼に教え込んだ。
そして勿論、快楽も。
シュガー・ダディ。
人は「彼」のことをそう揶揄したが、そんな俗っぽい言葉で片付けてしまうには、あまりにも大きな存在だった「彼」。
そんな「彼」を裏切り、「彼」の下を飛び出してからのこの10年余り、一度も「彼」に会ったことはなかった。
チェルシーからどこか他所へ移ったらしい、と風の噂では聞いていた。
それでも、今だに時折この界隈に現れている、という話も。
この界隈で「彼」を知らない人間はいない。少なくとも10年前はそうだった。
「彼」自身に出会えなくても、見知った顔に出会えれば連絡先を入手出来るかもしれない、そう思っていたのに、
そんな時に限って誰にも出会えないものだ。
久しく顔を出さないうちに、馴染みの店の名前もバーテンダーも、何もかもが変わっていた。


ふと壁際のほうから視線を感じ、反射的にそちらのほうへと目を向けた。
緩い癖のあるダークヘアーの、背の高い男が壁にもたれるように立っていて、グラスを口に運びながらミシェルをじっと見つめている。
その日何度目かの、男からの熱い視線。 またか―――ミシェルはその男の視線から逃れようとした。
それなのに。何故だかその男から目を逸らすことが出来ない。
一体どうしたというのだろう。男の強烈な視線に抗うことが出来ないのだ。
今夜それまで何人もの男たちから向けられた、ねっとりとした嫌な視線とは違っていた。
男の向けるそれには何故だか嫌悪を感じない。
全身を駆け巡る「何か」が彼をじりじりと追い詰め始める。いけない。今日の目的は「彼」を捜すことだ。
そう自分に言い聞かせ、何とか男から視線を外して、彼は再びグラスの酒を口に流し込んだ。
鼓動が早まったことと関係しているのだろうか。グラスに押し付けた唇が少し震えていた。


その時、カタン、と音を立てて、さっきのアジア系の男が席を立った。
獲物<ミシェル>に狙いを定め、ゆっくりとした足取りで男がミシェルの許へと移動し始める。
カウンターはいっぱいで、端っこに座るミシェルの隣の席は空いていなかった。
それで安心しきっていたのに、タイミング悪く、隣の男が金を置いて席を立ってしまった。
自分もそうしようと上着のポケットに手を突っ込んだところで、その男がミシェルの隣に身体を滑り込ませて来た。

「・・・Hi 」
「・・・・」
「さっきから君に見とれていたよ。余り見かけない顔だね?」

アジア系特有のアクセントで男が微笑んだ。それには答えず、男に顔を背ける。

「誰かを待っているの?」
「・・・Yeah」
「それは酷い。こんなに美しい人を待たせるとは、なんて酷い 『 男 』 だ」
「!」
「そんな男は放っておいて、この美しい夜を僕と一緒に過ごさない?」
「・・・あー・・・悪いけど―――」
「―――金ならいっぱい持ってる」
「!」

ミシェルの耳元で男が囁く。
にやり、とした顔で彼の答えを待つ男に、ぐつぐつ、と腹の底から不快な感情が沸騰し始めた。
あの男もあの男も、こんなふうに下卑た薄ら笑いを浮かべていた。でももう、僕はあの頃の僕じゃない。

「そういう子が欲しいならクリストファー通りへ行けば? 金の欲しい子たちがあんたみたいな男を待ってるよ」

そう言ってカウンターの上に金を置いて席を立つと、男がミシェルの腕を掴んだ。

「待ってよ! 」
「放せよ!」
「―――待たせて悪かった、ミシェル」
「―――!?」

さっきの壁際の男だった。アジア系の男をひと睨みし、その男の腕を引き剥がして捻り上げている。

「痛い!痛いっ!」
「!」
「Back off ! (失せろ!)」

何事か、と周りの人間の好奇の視線に包まれながら、そのアジア系の男が何か悪態を吐きながら出て行く。
恐らく母国語だろう。
呆気に取られたように男の顔を見つめるミシェルに、まあ座って、と仕草で促し、男が隣に腰を下ろした。

「・・・ありがとう・・・」
「彼と同じものをくれ」

バーテンダーにそう声をかけ、男がミシェルに向き直る。


威圧感とも言える、独特の存在感を放つ男。
ミシェルの中で恐れのような、焦りのような、得体の知れない何かが生じていた。

「あの・・・」
「?」
「助けてくれたのに、こんなこと言うのは間違ってるけど・・・」
「Yeah ? 」
「・・・勘違いしないで」
「What !? 」
「これで今夜、僕を落とせる、なんて思わないで」

ミシェルの言葉に男は天井を仰いでははは、と笑った。

「なるほど。見返りに今夜の君か。それも悪くないな」

男の向ける笑みにそういう邪(よこしま)なものは感じられない。
さっきはあんなに熱い視線を向けてきたくせに、古い友人か何かみたいな呑気な顔で彼の横に居座っている。
不思議な男だ、そう思った。彼はつい傲慢な言葉を向けてしまったことを悔いた。

「! そうだ、どうして僕の名を?」
「・・・君を知っているからさ、ミシェル」

男が意味ありげな笑みをミシェルに向ける。
男の低い声もその視線も、ぞくぞくとするほどに艶めいていて、彼はまたしても、とくん、と大きく波打つ
胸の音を聞いた。
だが彼はそれを隠し、何食わぬ顔をして飲み残していたグラスの酒をあおり、男へと向き直った。

「・・・君は誰?」
「・・・ミゲル」
「!」
「つまり我々は、同じ大天使の名前を持つ者同士、出会うべくして出合った堕天使・・・そんなとこかな」
「!」

それは「彼」がミシェルを抱きながらよく言っていた言葉だ。ミシェル、我々は堕天使なんだよ、と。
何故なら「彼」も偶然にして、大天使ミカエルの名前を授かった男だったから。
「彼」を捜してやって来た店で、「彼」と同じ言葉を囁く、「彼」と僕と同じ意味の名前を持つ男。
これは単なる偶然だろうか。それとも、何かを意味しているのだろうか。
僕を知っているのなら、もしかしたら「彼」のことも知っているのかもしれない。根拠はないが、何となくそう感じた。

「・・・So・・・」
「・・・?」
「さっきの男に何を言われた? 君のあの怒りから察するに、金、だろうけど」
「!」

どうして解るんだい?そんな顔をするミシェルに、ミゲルが再び笑みを向けた。

「"彼ら"は金を持ってることが一番のステータス・シンボルだ。女を口説く時、車や仕事を自慢する男がいるように、
"彼ら"にとっての最大の武器を君にアピールしてみせただけだ。別に君を買おうとしたわけじゃない。
そうカッカするな」
「・・・Oh・・・」

確かに彼は、さっきの男に男娼の扱いを受けた、と憤っていた。それを見透かしたような男の言葉に耳が熱くなる。
いや、とっくに彼の耳は熱を帯びていた。何しろさっきからずっと、地を這うような、低く艶かしい声が
彼の耳をくすぐっていたから。
それを誤魔化すようにミシェルは軽く笑った。

「勝手に熱くなったってことか・・・馬鹿みたいだ」
「気にすることはない。・・・俺にも経験あるよ」
「!」

それはつまり、自分を売ったことがある、そういうことだろうか。
それともさっきのミシェルのように、男娼の扱いを受けて憤ったことがある、そういうことだろうか。
それとも・・・

「ヘーイ、ミゲル!」
「?」

酔った足取りで女と一緒に店に入ってきた男が彼に声をかけ、ミゲルが呆れたような顔をその男に向けている。

「何てザマだ、ショーン。ヴィレッジいちの色男が台無しだぞ」

ミゲルの言葉を気にも留めず、男は連れの女と空いた席に並んで腰を下ろした。
座るなり、女は男に身体を預けるようにべったりとし始めている。
やれやれ、といった顔を男に向け、彼がミシェルへと向き直る。

「出ないか?」
「え?」
「女といちゃつく男を見ながら飲みたいかい?」
「あ・・・」


気が付けば、ミシェルは彼に誘われるままに席を立ち、連れ立ってその店を後にしていた。
「彼」を捜す気など、とうに失せていた。今更会ってどうするつもりだったのだろう。もうその目的さえも思い出せない。
流れに身を任せるようにブリーカー・ストリートを北のほうに向いながら、ミゲルが彼を振り返る。

「それで? どこか行きたい場所は?」
「・・・・・・」
「・・・ひとりになりたい?」
「・・・・・・」

どちらの問いかけにも無言のまま静かに首を横に振るミシェルを見て、ミゲルが肩をすくめた。

「・・・無理強いするつもりはない。帰りたいならそうすればいい」

静かに微笑んでそう言うと、ミゲルは彼に背を向けて歩き出した。

「待って!」

ゆっくりとミゲルが振り返る。まるでそれを見越していたような表情で。

「・・・連れてって」
「・・・」
「連れてって」
「・・・どこへ?」
「・・・君のところへ」

ミゲルは何も言わず、彼の真っ直ぐな視線を静かに受け止めていた。

「お願い・・・」



                                      
以下、男性同士のR18描写です(短いし、そうたいしたもんじゃないですが)。苦手な方はご遠慮ください。



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